個性:ASO

個性




「無責任に無“個性”の背中、押してんじゃねーよ」

自分を敵視してるやつの言葉を要約するとそれに尽きる。
無“個性”でなんの力もないやつを、ヒーローにしても死なせるようなだけ。
てめーの自己満足の為にそんなナードの背中を押したんだろうが浅はかなんだよてめぇクソが死ね!!

それが癪に障った。
責任、取ったろうやないかい。

「そう勝手に思って、行動してるだけですから。せやから緑谷くんのお母さんが気になさることではないです。
 むしろ、巻き込んで申し訳ないと思っています」

不思議な“個性”で息子を助けてくれる同級生の女の子の言葉に、緑谷引子は号泣してしまうほど嬉しかった。
家族の自分以外―いや、正直なところ自分でさえもヒーローになれることはできないだろうと思って、最初から諦めていた。
それどころかヒーローになるには怪我もつきものだ。
その心配をしなくても良いだろう、と、何度自分を慰めただろうか。
息子自身の夢も希望も失っていたというのに。
できれば、子供の夢を応援したかったのに自分が無“個性”として産んでしまったばかりに。
だが、それでも良いのだ。と。
無“個性”でもなるべく怪我をしないで、しても治せる技術を身に着ける事と身体を鍛えることはできる。
そう教えてくれた女の子。

「私も、できるかしら?」

興味本位だった。
瓶底眼鏡の向こう側の瞳が、驚いている。

「え…お勧めしませんけど……どうしてもと仰るなら…」
「なにこれ、すごぉい!」

そうして緑谷引子は息子の身体の鍛え方が、一般的なそれと違っていたことを知った。


◆   ◆   ◆


“個性”は人間の可能性だと言う人もいれば、大昔に出来ていたことが大半先祖返りしてできはじめて今に至るのだという人もいる。
千差万別。
いろんな意見や研究材料は有るが私、世界召の意見としてみれば、今となっては人種差別の大元だった。
“個性”の種類によってはただの印象で勝手に敵ヴィラン向きだのと判断されがち。
無“個性”であると知られたら、人間扱いもされなくなる。
無“個性”のままであれば、そんな力など全員なくなってしまえと泣き叫んだだろう。
だが、実際現実はそうはならない。
無“個性”はその年代の差別に負けずに生きていくしかない。

両親と飼い犬を一度に失う大きな交通事故…その原因を引き起こしたのがヴィランなので実質テロかもしれないが…から、無“個性”の私だけが生還して両親の親族たちから非難されたのちに“個性”に目覚めた。
財産の大半―親の生命保険を奪おうとした父方の叔母と母方の伯母に、報復を恐れた恐怖の目で見られるぐらいの強“個性”:サイコキネシス。
そんな名前を後々付けられたけれど、あいにくと私の力の本質じゃない。
サイコキネシスは、たんなる副産物だと、馬鹿正直にそれを口にすることはしなかった。
説明するのが面倒だったというのが本音。
強“個性”は間違いないのだから。
すったもんだがあって両親の親戚筋とは大半私は縁を切り、唯一味方してくれて迎えてくれた母方の叔母の一人が保護者になってくれたので、それに甘えてその叔母以外の親族とすべて離れた。
叔母関係で母方はかろうじて繋がっているけれど、正直お互い顔を見たくないだろうと勝手に私が判断して弁護士に頼んだのだ。

接見禁止。

もしも親族が私に近づいたら罰金を支払うようにしてしまった。
親族の冠婚葬祭も呼ばないでください。
両親とペットの骨は分骨にしてもらったから、自宅墓を選択させてもらったので三回忌やら何やらはこちらでこちらですると宣言した。
あと個人情報保護ということで親族たちに居場所がわからないように住所もロック。
…同い年の従弟がヒーローになるときに汚点にならないようにという口止め料込みの慰謝料を貰ったが、そんなの書面に書いてないから知った事ではないが、うん、正直私も従弟殿とは顔を合わせたくない。
学校で高校からヒーロー科に通うことが確定している彼と会うことがあっては、私が嫌なのでヒーローにはなるが、大学でヒーロー科になってそれからだと考えている。
チームアップとかは緊急事態以外は基本、裁判所の決定を盾にしないつもり。
小6でそこまで決めてしまえたのは、“個性”のおかげでよく頭が動き出したからだろうか。
いや、頭脳(あたま)だけじゃない。
私の“個性”を切欠にして、関連した前世の知識を思い出した。
身体能力を確実に上げた。
身体は覚えれば覚えるだけ、格闘技術を身に着ける。
道具だって不器用だったことが嘘のように使える。
“個性”で覚えた異能まで、社会で使えるようになるまでになった。

家族の死、自分の精神の死と引き換えに得た私の“個性”。
――――それは「異世界」と呼べるべきもう一つの世界と、そこに存在する全て。
今はそう設定して睡眠時間のうちの三時間、キーワードを唱えてから眠ると入れるその場所は、西洋ベースのくせに東洋系も絡んでくる異世界。
あえて名前を付けるとしたら“個性”:アナザーリンクサーガ・オンライン。通称:ASO。

かつて、私・ になる以前の「あたし」が小説で楽しんでいた世界そのものが、私の“個性”らしい。



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