即席大司祭様は、引きこもりたい

そもそものはじまり




大成功クリティカル大失敗ファンブルを何回繰り返したかわからないが、まぁそんな感じで私のキャラクターPCはその日の冒険で死亡ロストした。

ロードス島戦記RPG、というテーブルトークRPGがある。
フォーセリアという架空の剣の世界ソードワールド1stにある南の大きな大陸呪われた島を舞台にした剣と魔法のファンタジーだ。

30周年記念で改定されたそのテーブルトークRPGを遊びたいと思っても、なかなか友人たちも仕事や他の遊びでできないといわれたのでオンラインセッションとやらをやってみたのが運の尽きだった。
殺意高めだが報酬とかいろいろ旨い、連続したセッションを続ける羽目に。
いや、正直、ゲームマスターをしてくれていた人が本当、話の持っていきかたが、うまかったのだ。
その島の歴史上『魔神戦争』と付けられた時代を舞台に活躍した英雄たち。
彼らと同時期の冒険者をルールブックとにらめっこしながら作った『ドワーフの女盗賊』はLv10の大台に上がる前にお亡くなりあそばした。
殺害した相手が魔神だったので遺体は損傷されて蘇生魔法が受け付けられない状態になって…まぁあとの展開はとてつもなくドラマチックに仲間が盛り上げて戦闘してくれたが結果として私が今後ゲームに参加するとしたら新しいPCで、ということになった。
結構、お気に入りの女ドワーフだったのになぁ。

設定上は、ギム(原作キャラ)の実姉でレイリア(原作キャラで英雄の一人)の友達兼姉的な存在の風変わりな大地の妖精族だった。
農業と料理と鍛冶が好きで、動物の姿をしていた『プーカ』という妖精一体と一緒に森で生活していた彼女。
とりあえず有名どころの英雄たちの胃袋は掴んでたキャラクターだったが。

…………………………………………まぁ、うん。死なせちゃったんだよなぁ。

あまり気にしていたのか、その日、夢の中に彼女とそして声しか知らないゲームマスターが出てきた。
…次のPCを決めかねて、枕元にルールブックを重ねて眠ったからだろうか。
それとも新しいPCを作る際に「Lv10、上級職でスタート。」「死なせたお詫びにLv分のパーティ、傭兵を管理できるようにする。」とか言われたからだろうか。
勘弁してくれ。
1パーティ6人として60人の傭兵管理なんて死ぬ。
戦争じゃないか。
いや、確かにあの時代は本当に戦争してはいたが。
でもそうしなくちゃ、簡単にまたPCを失うような殺意高めのキャンペーンを組んできそうな予感もする。
えぇい、もし万が一そんなことになったらあれやぞ。
名前なんて番号かABCにするぞ。

「で、どうするんだい? よく考えな。」

なんて女ドワーフに声をかけられた気がするので彼女を見た。
キャンペーンに参加した有志によってイラスト化された自分のキャラが、動いて話している様子…ただ声の方はあいにくと声優さんを想像できない。…を見れて、夢の中で変な感動を覚えつつ、答える。

「いや、よく考えろと言われてもなぁ。」

私はそう答えたはずだ。
気が付いたらあった机にはサイコロとキャラクターシート。
目の前に座っているゲームマスターが筆記用具を用意している。
やはり夢なのは確実だろう。
ゲームマスターの姿がころころ変わる。
少年になったり老人になったり。そして不思議と鼻から上、目元が全く見えない。
……………………あぁ、次のPCを考えるのか。
そうか。
次かぁ。

「君を失ってから、すぐに次は作れないさ。」
「じゃあ、一緒にやろう。」

そう、聞こえた。
目の前に出てきたのはルールブック三冊。

「多少、魔法やアイテム系の参考にしようかと。」

そう言ったのはゲームマスターだ。
「あぁ、そういや便利系の精霊魔法とか削れてたっけ?」
「まぁ戦闘には使わなさそうなデータだけどね。他のも見てみるよ。」
「元は同じ世界だから、いけないことはないと思うけれどカスタマイズ、大丈夫?」
「そこはなんとかするよ。」
「ならいいんじゃないかな。」

結構分厚い剣の世界ソードワールド1stRPGの完全版とロードス島戦記RPGの二冊。
私は二冊目は電子書籍だったからな…部屋を圧迫する紙の本はもう置けない。
文庫版はもうボロボロだから、完全版の方購入しようかな。
でもそんなに遊ばないだろうし、悩みどころだ。

「そういやアドベンチャーとか、RPGのリプレイとか出てたよね。」
「呪われた島のもあるけれど、そこは完全版で編集されてないかい?」
「いや、確か、未収録の魔法やらアイテムがあったはず。」
「確認するかな。」なんてゲームマスターと会話しているが自分が演じるキャラクターを想像するのは忘れない。
うん、忘れないんだが、ちょっと想像できない。

「今のお前さんを冒険者にするとしたどんな感じだい?」

ゲームマスターと会話していたのをぶった切るようにドワーフが聞いてくる。
今の、私? 現実の?

「武器持って戦闘は無理。持てる武器は包丁ぐらいじゃないか。あと、バット?
 弓なんか使ったことがないから、まぁ、無理ですな。」
「無理ばっかりじゃないか。」
「だから、君に持たせたんじゃないか。私のドワーフ。」

ふん、と女ドワーフは鼻息を荒くした。
君は私の理想だったんだ。
自分にできないことをさせるのがゲームの醍醐味だろう。
弓も剣も使える女ドワーフ。騎士たちと前線にも出たよね。
「ハンマーを武器にしてないが、いつだって心のハンマーは磨いてる。」
「今、それを叩いてんだよ、馬鹿垂れが。」とか、そんなセリフを遊んでいるときに吐いたキャラ。
器用で、ピッキングだって朝飯前だった。
上級職は斥候一択のつもりだったが、今はもう儚い夢。

「冒険者、冒険者ねぇ。
 個人の好みとしては魔法使いたいんだが?」
「魔術師か…。」
「いや、なんつーか。ウォート思いだすからそっちの方向はちょっと。」

ウォートは原作に出てきた英雄の一人だ。
彼個人に対して憎悪やらなにやらはなかった。
原作小説でもテーブルトークRPGでも、過去から未来にかけて超がつくほど有名。
キャラクターとプレイヤー私達にとっては、大事な妹分であるレイリアを自分から奪いかける…原作小説では結局、くっつかなかったが、それはそれだ。…凄腕魔術師。

「引きずるねぇ。」
「うちの娘とくっつくのもむかつくが、くっつかないのもむかつくんだよなぁ。」
「君たちにかかれば大ニースも娘か妹か。」
「英雄の前に、一人の人間ですしおすし。」
「大地母神の愛娘、と言われる前から私の妹分だが?」

私とドワーフの言葉にゲームマスターは小さく笑った。
ゲームを楽しんでいた時もずっとこのスタイルだったから、他のプレイヤーにもおかん扱いされてたな。
うぅん、とうなりながら私はとりあえず話を戻した。

「ちょっとパターン変えて、ゴーレムマスター系魔術師なら、ワンチャン?
 でも今の私がベースなら、生かせない可能性も高いよなぁ。結果、脳筋やし。」
「他に魔法を使うのなら、精霊使いか司祭だが…?」
「君やプーカを忘れたくない、と思うのなら素直に精霊使いなんだけどね。」

脳内データを引っ張り出していると、ゲームマスターも該当するデータのページを出してくれる。
ドワーフは『暗視』の特技を種族的にもっているが、人間には当然ない。
例外は精霊使いだ。この職業につくと普通に『暗視』能力を得る。
NPCとして動物に変化してした妖精・プーカも使っていた精霊魔法。
ちょっとそれだとなぁ。


「やることが重なると、私が自分のPC自体を冒涜しているような気がする。」
「冒涜とは。」
「…いや、私のPCは、私の理想像なんやぞ? それと自分が同じことしたら、こう、なんかあかんやろ。」
「…難儀な…。いや、そしたら一択しかない。」
「神聖魔法か。」
「ニースと被ったらいやだから、信仰先と上級職は変えるけど。」

そう。
自分をベースに考えてしまうと、重い鎧や武器を持てないし馬に乗ることもできないので騎士や戦士は無理。
基本的な装備が弓で器用さもそこそこあっても最後の最後で失敗するのが目に見えてわかるし、何より私のドワーフと被るので盗賊も不可。
精霊魔法は心が動くか、友達のプーカのこともあって精霊使いもご遠慮。
そうしたら司祭しかないわけで。
いや、司祭も司祭で鈍器装備できるんだがな。
ここは前衛の皆さんと仲間内の司祭系には前衛に出て頑張っていただこう。
私は後衛です。後衛でお願いします。

「信仰先かぁ」

便利系のスキルとか、まったく考えなくて。
あくまでも自分をベースに考えれば。
ニースと被りたくないから母なる大地は残念ながら最初から選択しない。スキル的にはいいけど。
正義厨ではないし、正しさのみを突き詰めて自分の行動原理にしたくない。
頭の方はよろしくないので神様の方から拒まれそう。
勇気は自前であるのかと思ったら、無い寄り。そんなん欲しいわ。くれ。あと歌がちょっとはずい。
幸運はものすごく欲しいけれど、根が素直すぎるから商売人には向いてないって言われたしな。

善の五大神、全部ダメじゃん。

いや、あれやで。
まんべんなく、みんな信じてるだけ。特別この神、私の推し! とか言うのはないだけ。
私は口に出してはないはずだけれど、察したのかゲームマスターが笑った。

「いや、君。本当に面白いな。」
「褒めて頂きどーも。」
「あぁ、その調子なら五大神だめなのか…。」


察したドワーフが息を吐く。


「すまんな。」
「司祭になるのなら信仰先は…あぁ、あと二柱か。」

私のドワーフがそう言って見上げてくる。
ロードスならあと二柱なんだよなぁ。いや、大陸の方でもか。
まぁ他の大陸も含めたらまだいるけれど。
残りは芸術(運命)の神と鍛冶の神。
勇気の神と理由一緒で芸術があかん。
いや、聞くのは好きだけど自分がするとなると、ね。
ゲームだったら間違いなく、選んてたけど、あくまでも現実の自分がベースなら無理。
なのでこれもまた実質一択。
確か、この神の信者ドワーフが中心だったな。
あ、そうなると私のドワーフも信仰してたり?
あんまり、そっち関係の設定してなかったからいけるかな?

「火山と鍛冶の神・ブラキ様。あと、上級職は『大司祭』でお願いします。」
「『大司祭』? 神の言葉を聞くことに執念燃やすわけかな?」
「『癒し手』だニースとかぶるし、『神官戦士』だと積極的に戦わなくちゃならんでしょうよ。」

確かに、とゲームマスターは笑みを深めた。
ロードス島戦記RPGの司祭は、神殿に引きこもるか信者を増やすために説法するために出歩いたりする。
あるいは、神の啓示に導かれて冒険に出る。
出だしとしては女ドワーフの大親友、親友の死で悲しみを覚え神に願い出て他の冒険者の支えになる為に神殿から出てきた。―という感じで行くかな。
事実、この神様を信仰していて使える神聖魔法の中には武器や防具を直す魔法があったはず。
…鍛冶とかできたら最高なんだけどな。その手の知識とかスキルにあったっけ?
ルールブック読まないとな。

「じゃあ、基本になるLv1から作ってみようか。」
「…いや、ルールブックに神官王いるから、それ流用しよう。」
「じゃあ、能力値はその子をベースにLv13まで上げて。経験点は110000獲得済。特技点は1100点かな?」
「Lv13なんて英雄クラスじゃん。Lv10じゃないんだ。」
「超英雄にはなってないけれど、そこまでのレベルは持ってることにしないとね。
 だって君のリアルの年齢でLv1はないから…。」
「おい、なんで貴様知っている。」

ゲームマスターの言葉に、私はキャラクターシートを広げて鉛筆を握った。

冒険者Lv13 大司祭(ブラキ)/神聖魔法:ランク7

はっきりと覚えているのは、それぐらいだ。 武器や防具、それから所有アイテムがどうのは決めているはず。
音声の無い映像、映像がない音だけとか何度か繰り返したのではっきりはしていない。
あと、傭兵管理に関しても根掘り葉掘り聞いた気がする。
マジックアイテムも普通に冒険してたら貰えないようなものも貰った。
流石、夢。
俺TUEEEもニートもできるんじゃないか、というのが全体の感想だった。
そうして最後、女ドワーフとゲームマスターと別れ際の言葉だけ、きちんと耳に届く。

「心のハンマーはいつでも磨いて叩きつけられるようにしておきな。
 私たちが戦っていた時の様に。」
「次の言葉を、本当の意味合いで送ろう。今から君の世界、大変だからね。
 君たちが右往左往する様をこれからちゃんと見られる対価として、その世界を泳ぎきれるだけの支援は今送ったつもりだ。
 あとはもうこの世界で【「汝の成したいように成すがよい」】。」

「いや、それ暗黒神の教義ファラリスやろがい。」

そんな自分の言葉で、ぱちんと目を覚ました。
知っている天井をまじまじと見てから、瞬きを数回していくと夢の残滓がほろりと消えていく。
と、同時に夢内容も一緒に空気に溶けていくのを、私はしっかり感じとっていた。


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