鎖をつけられたとき、激怒した仲魔たちの様子もその声も。
人間たちの嘆きも悲しみも憎しみも嘲りも甘えも妬みも嫉みも強さもなにもかもがどうでもよくなっている自分に気がついた。
だから甘んじて奴隷として数年生きれたけれど、どうやらあの金髪のお坊ちゃまか老紳士はまだ僕を死なせないつもりのようだ。

意識が浮上する。
身体の感覚が戻ってくる。
暖かな光と水の気配と空間に、嬉しいと感じる自分にどこか笑った。
だけど表情にはけしてでない。

封印がそうさせているのもあるけれど、きっと封印をといても僕はもう感情を顔に出すようなことはできなくなっているだろう。
心が乾ききっているからなぁ。
自覚はある。
僕はゆっくりと瞼を開く。
見知らぬ木製の天井が見えた。
きぃっという小さな音と波の音が聞こえるということは、船の中。
あぁ、僕は助けられたんだろう。
…って誰にだっけ?

「目を覚ましたのか? もう大丈夫だぞ〜?」

男の声と、みかんの匂い。
白い手が僕の頭をなでていて、彼女と視線が混じる。
僕はこくりと頷いて、じっと見つめたまままた瞼を閉じた。
決定だ。
もうこれは確実に『ワンピース』の世界だ。
なんでだろうなぁ、どうしてこの世界に落ちたんだろう? 僕は。
どこかであの紳士と子供が笑った気配を感じて、僕はただその気配から逃れるようにまた意識を落とした。


人修羅、うぅん。
もう人間なんてかばうことないのよ。
ここはあんたの世界じゃないんだもの。
としてもとしても守る相手じゃないでしょう?
そりゃぁあの孤児院の子供たちは助けなきゃいけなかったかもしれないけれど、それにしたってもういいじゃない。
封印解除して、どこかの島国に行きましょうよ。
マガツヒとるにしてもあんたから見て気に入らない人間からすればいいし、人間っぽく食事したいっていうんであれ、元の姿のほうがいいって。
なまじ封印しちゃうからこんな風になるのよ?




ストックの中の一番最古参の妖精の言葉が心の闇によく響いた。
仲魔たちには僕の過去というかそういう類のものをうっすらとだけど話してある。
…そうか、そうだなと返したけれど封印は解かない。
目的もなく生きる道筋もなく親も友達も知っているのは仲魔だけでそれだけで満足でほかの誰もいらない。
生きることも死ぬこともどこかの誰かが同価値といったけれどまったくもってそのとおりかもしれない。
夢も希望も価値すらも今の僕にはないのだから。
僕はただ生きているだけのもの。
そう、くしくも僕を買ったあのご夫人が名づけたように。

数分間だけ目を閉じていた僕は、もう一度瞼をあける。
金色の僕の瞳にはたぶん、彼らの姿が映ってる。
意志の力を宿すことがなくなった、この瞳に。
僕は覗き込んでくる彼に対して指だけで自分を示す言葉を宙に書いた。

『僕は、『人形』です』



そう、あのご婦人がつけた僕を示す言葉は『私の可愛いお人形』だ。
まったく持って今の僕にはふさわしい。

2007.03月頃UP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送