「俺の名前はモンキー・D・ルフィ。海賊王になる男だ。お前の名前は?」
「ルフィ、この子…話せないのよ」
「そうなのか?」

黒い瞳が僕の顔を覗き込んで、僕の金色の瞳とかち合う。
それが僕と麦わら海賊団船長・ルフィの出会いだった。




僕は頭を小さく下げてから、ナミさんが持ってきてくれた紙と羽ペンで会話する。
豪華客船が嵐で流されて、しかもそこを海賊にやられてしまった。
僕はその生き残りの、金持ちが最近買い上げた『奴隷』。
僕は生まれつき言葉が不自由だけれど、この金色の瞳が気に入られたこと。
いろいろと聞き上手なナミさんとサンジのおかげで僕は孤児であることや孤児院のこととかも書かされた。
疲れたので眠らせてもらって、次に起きたときにそばにいたのはナミさんとルフィ。
少し離れた場所に立っているのは、たぶんゾロとウソップだ。
(なんでナミさんだけサン付けなのかは彼女がこの船で一番えらそうだから)

『助けていただいて、どうもありがとうございます。よろしければ、どこか島に寄ったときにでも下ろしていただければ』

そう書いて手渡すとナミさんはその文章を目で追って困ったように眉を潜めた。
あぁ、もしかしてお金かなぁ。

「そんで、あんたは降りてどうすんの?」

えーと……。
僕はただ彼女を見上げて小首を傾げてみる。
どういう意味だろう。

「あんたを買ったマダムは船もろとも沈んだのなら、あんたは自由よ。どうしようとそりゃあ勝手だけれど…まだ子供じゃないの」

…あぁ、そうか…。
そういう意味で心配してくれているのか。
なんとかなりますので、と書こうとするとルフィがそれを邪魔した。

「おい、お前」

ちょっと怒った口調と顔。
なんだ? 僕は彼に何かしただろうか?

「お前……なんでそんなに全部、なんもかんも諦めた目、してんだ」
「…」
「ルフィ!」
「おい、ルフィ…」

ナミさんの声にもウソップの声にも麦わらの海賊は僕を見ている。
…あぁ、これがモンキー・D・ルフィなのか。
アニメや漫画をよく見ていたそのときもこの人は相手の心を鷲掴みしたな。
敵も味方も。
そう、今僕の目を見てきっと心まで見ようとしてるんだ。
ストックの仲魔たちから小さな感嘆らしい声が聞こえてきたのを僕はどこかで感じながら見返す。

「なぁ、なんでだ?」

ごまかせない。
けれど全てを彼にさらすつもりはないし、そこまで彼らと付き合うつもりはない。
確かにアニメでも漫画でも彼らの行動や言動は全て大好きで尊敬もしている。
けれど。
今の僕にとって彼らはまぶしすぎて、まともに見れない。
僕は新しいメモ用紙に言葉を書いて、それを渡すとぺこりと頭を下げてベットの中にもぐりこむ。
それを合図にしたように皆は部屋を出てくれた。

ルフィ視点

「ルフィ、あんたねぇ。察しなさいよ…もぉ」
「そうだぜ。あんなに無表情なヤツ、初めて見た…。きっともっとこう…なんかつらいことがあったに違ぇねぇんだ」
「…売られた場所では『お人形』呼ばわりされて、まともな扱いされてない子なんだぞ」

ナミやウソップ、それからサンジが口々にそういうけど俺は半分も聞いてなかった。
ナミのメモ用紙に書かれたあいつの文字を、ざっと読む。

う〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
ぐしゃ。

「何握りつぶしてんだ!」

ナミの拳が飛んできて、メモを取られた。
う〜〜。
俺はしゃがみこんで、そんでもって痛さに耐えてから立ち上がる。

「『世界に放り出されたから』…?」
「なんだそりゃ」
「よくわかんねーなぁ」
「子供の書く文章にしちゃあ、ちょいと、な」

ナミ、ゾロ、ウソップ、サンジが何か言ってる。
けど、俺は。

「気にいらねぇ…っ」
「「「「は?」」」」
「なんか、俺、気にいらねぇ」
「何がだよ」
「あの子が気に入らないから船から降ろすって言うんじゃないでしょうねぇ」

そういうんじゃねぇ。

「あいつの今の心が、気にいらねぇ」

なんとなくだけど、そう思ったからそう口にすると皆から散々怒られた。
なんでだ?
俺はあいつが気になってる。
すげー、綺麗な金色の瞳。
きらきらでぴかぴかになるんだろうその色が、くすんで光が入ってない硝子みてぇに見えたからかもしんねぇ。
せっかく綺麗な瞳なのによ。
せっかく綺麗な心なのによ。
それが曇ったまんまで、あいつはそれをわかってて綺麗にしようとさえしねぇ。
それが気にいらねぇ。
俺は俺の宝物をかぶりなおした。
足は自然にいつも皆で食事するあの場所に向いていた。
サンジが俺達の分の食事とあいつ用にえれー少な目のスープを作ってる傍で、俺は椅子に座りなおした。

「なんだ? まだ怒ってんのか、くそゴム」
「あぁ、気にいらねぇ」

ゾロは修行、ウソップはウソップ工場でなにか作り始めた。
ナミは海を見てる。
むぅ…っ。
気になるんだけど気に入らなくて、気に入らないけど気になる金色のあいつ。

「よぉしっ!」
「お、どうした? 船長」
「俺、もっぺんあいつに会ってくる」
「え? ちょっ、待て! またあの子苛めるんじゃないだろうな? ナミさんが怒るぞ」
「しっけいだな、サンジ! 俺は苛めた覚えはねぇぞ!」

立ち上がってあいつが寝ている女部屋(ナミの部屋)に行って「おう、入るぞ!」といいながら扉を開けると。


「…って先に誰か居る部屋にはノックして入るっていうのがマナーってものじゃないの? 人間?」

眠っているあいつの上に、透明の虫みたいな羽を持ったちっけぇ女が浮かんでた。

うぉおおおおおお、虫人間だーーーーーーっすっげーーー俺、初めて見たーーーー!!!!

ばっか、妖精っつーんだ! ああいうは…ってはぁあああ? 妖精?!!



どうでもいいけど煩いのよ、あんた達

ちっけい妖精のくせしてその足技はナミの拳骨並みに痛かった……!

「うちの人修羅が世話になったから、御礼しようと思って出てきてあげたのよ。感謝しなさい、人間」
「なんで感謝されなきゃいけない側が、ダメージ受けるんでしょうか…っ」

サンジが俺の傍でうめきながら言うと、その虫人間はこう言った。

「折角、人修羅を眠らせたのにあんた達の声で起きそうだからでしょ?」

俺が顔を上げると、そいつは笑う。

「あたしは妖精ピクシー。人修羅を助けてくれてありがとう」

ヒトシュラ?
ヒトシュラってーのがこいつの名前か?
俺達にも妖精にも気がつくことなく、あいつは目を閉じたまま起きなくて。
俺はそれが少し残念に思いながら、この虫人間からいろいろ聞くことにした。

2007.03月頃UP

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