ナミさんたちに連れられて町に入った僕は、ぼんやりと人の波を見つめていた。
なんにも言わずに別れたとしたら、きっとこの人ごみの中、大声で僕の名前を呼ばれるんだろうなぁ、とか思ってしまう。
もちろん、呼ぶのは僕の手をつないでいるルフィだ。

「ここが、海賊王が処刑された町…!」

目をきらきら輝かせているそのルフィの手をチョップで攻撃すると、離れた隙にナミさんが僕の手をつないだ。

「なにすんだよ、ナミ! は俺と一緒に処刑場見に行くんだ!」
「おばか! 用の服とか買いたいからあたしが連れていくって昨日、散々、あんたに、言ったわよね?!

言ってたのか。僕は聞いていないけれど。
どうやら他の皆と僕の買い物に関して話し合いをしていたらしい。
僕には秘密で。

「行くわよね、
「俺も買いたいもんがあるから途中まで一緒に行くか」
「ゾロ、あんた文無しじゃないの? いいわよぉ? 貸してあげても。ただし、3倍返しでね」

…ナミさん…3倍返しって…。
僕がナミさんを見上げると、ウソップが僕の頭をなでてくれた。
彼の話いわく、僕用の武器とかもウソップは考えてくれているらしい。
僕が「いらない」の意味をこめて首を横に振ると、ウソップは「だいじょーぶ、このウソップ様がグレートなの作ってやっからな!」と聞く耳持たない。

「俺たち仲間だからな」

仲間じゃない。
僕が首を横に振ろうとしたら、ルフィが僕の頬をつねった。
目と目が合う。
…。
…?
…あれ?

「ナミの買い物が済んだら処刑場に来いよ! 
「いつまで、つねってんだ!」

サンジに蹴られて、それをよけながら笑いながらルフィは走っていってしまう。

「おいおい、集合場所も決めてねぇぜ…」

ウソップの言葉を、僕は聞いていなかった。
ルフィの、あの目は怒っているというよりも、いつもの目なのだけれど…悲しんでた?
…?
なんだ?



ふいに名前を呼ばれて見上げると、ゾロとナミさんが僕を見下ろしていた。

「どうしたの? 行くわよ」
「…」

僕はこくりと頷いて歩き出した。
…僕は仲間じゃない。
…麦わらの海賊団の皆には悪いけれど、黙って、皆と別れよう。
そうじゃないと、いつまでたっても彼らから離れられない。
ナミさんとの買い物の途中で、はぐれて。
それで…。
( 「お前のなんもかんも、全部俺が取り戻してぴかぴかにする。俺がそう決めた」)
…なんでこういうとき、ルフィの言葉を思い出しちゃうんだろう。

今のお前の心に、しみこんでいるからだろう?

マガタマたちの言葉を、僕は無視した。
途中までゾロと一緒にいたけれど、いつの間にかはぐれて僕とナミさんはそのまま服屋さんに直行して情報収集とナミさんの服、そして僕の服の買い物をし始めた。
でも半端じゃないほど買い込むんですが、ナミさん。
いや、女の子、だからいいとは思うけれど。
僕も、大本は女だし今半分は女だからわかるんだけれど。

「次はこれね」

僕が首を横に振ってもナミさんは服を押し付けてくる。
僕は黙って押し付けられたそれを見つめる。
スカートやワンピースが多いのはなぜだろう? 半分女の子だからか?
しかもナイトキャップ付きのパジャマまで選ばれた。
猫耳がついた奴で、僕がそれをかぶって見せるとナミさんが赤面して身悶えていた。
なにが彼女の琴線に触れたんだろうか?

「いいわよ!」

なにがだ。
僕はナイトキャップをはずすときれいにたたむ。
ナミさんは海軍の情報を聞き出すと、僕の手と荷物をとって店を出た。

…このままだと。/このままでいいだろう

離れなくなる。/望めばいい、そんなにこいつらが居心地がいいのなら。

僕は人間じゃない。僕の存在は人間には悪い。僕は誰も何も守れない。僕は…。
僕は。

人間の都合も他のものの考えもどこかにやって己ののぞみのままに望んでしまえ。
それが悪魔だ

マガタマたちが声高に僕の中でそう主張するけれど、僕は、
僕は。

…。



「…おい、女」
「へ?」
「その奴隷を渡してもらおうか。それは我らが主・マダムバタフライ様の奴隷だ」

店から出てしばらくして、そいつがナミさんと僕に声をかけた。
振り返る。
大男。
あのご婦人のところにいた、奴隷教育係の人間。
名前は知らないけれど、その男は僕の目を見てにやりと笑った。

「ようやく見つけたぞ。お前が死ぬわけないものな。『人形』」

人形。
ほんの数日前までは違和感なく受け入れていた、僕を示す言葉なのに。
どうして、ほんの少しでも。
いやだと感じる僕がいるんだろうか?
僕は黙って彼を見上げた。

「マダムもたいそう、心配なされていたぞ。お前はお気に入りだったからな」

ナミさんは僕をかばいながら、一歩下がる。

「さぁ、来い。『人形』。こなければ……もちろん、判っているな?」

行かなければ、従順にならなければ、あの孤児院の子供たちに手を出すとでも言うのだろうか。

「ちょ、ちょっと、!?」
「いい子だ。『人形』」




僕はナミさんに深々と頭を下げた。
今までありがとうございました。

さようなら。

2007.04月頃UP

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