あぁ、この人の髪型には多少なりとも覚えがあるや。
僕はそう思いながら、応急手当を施した。
勝手に誰かの家に入ることには抵抗があったのだけれども、まあ、もともとこの町の住人の人の手当だからいいだろう、と僕は決め付けて拝借することにした。
ゾロに切られても、さらに攻撃を受けてもちゃんと動けるこの人って人間のほうでは強いほうなんだろう。
…ピクシーが呼べればいいんだけれど、相変わらずストックからの反応はない…って、あれ?
なんか変な感じがするけど…今はおいておこう。

「ありがとう」

お礼を言われて、僕は首を横に振る。
ナミさんはゾロの様子を見に追いかけて行った。
僕も行ってもよかったけれど血で汚れたこの人をこのままにしておくのはどうかな、と僕の中の何か…マガタマではなくて僕の中にある欠けた感情が訴えたので応急処置を施すことに決めた。
今、僕が出せれるペルソナは現在『サタン』しかなくて、自分自身の治療はなんとかできなくもないけれど他人の治療はできない。
仮に悪魔の姿に戻っても、回復関連は仲魔に任せて僕自身は戦闘に特化したスキルしか保有していないから、こう人を治す、ということは不得意だ。
いや、持っていたけれど最終戦に備えてばしばし戦闘スキルに切り替えたからさ…たぶん、僕は回復系・防御系のスキルは使えない。
…と思うのだけれどその辺どうだろう?
マガタマたちはいきいきと僕の身体の中をうごめきまくっているが。

「もう私は、だいじょうぶだ。ありがとう、先に、王女たちと合流してくれるかな」

イガラムさんがそういうので、僕は首を縦に振って彼から離れる。
たぶん、一番何かが壊れている音がする方向に皆がいると思うんだけれど…。
僕はしばらく走っていたが、やがて足を止めた。
このあと、どうしたっけ、あの人。
一生懸命に思い出す。
たぶん、生きていたはずだけれど…。

「ナァンダ、気ニナッテンノカイ。大将」

僕の周囲の空気が放電して、のっぺりとした顔と身体をした仲魔がするりと出てくる。
ストックがなんか変な感じがしたと思ったら、また勝手に出てきた。

「マーッタク、ヤンナルゼ。リリス様モ、ハーロット様モ俺様ノコト、コキツカイヤガッテ」

で、逃げてきたのか。

「失敬ダナ、大将」

はふーっとため息をつきながらそいつがため息をつく。
彼の名前は神の獣マカミ。
最終戦には手を貸してはもらえなかったけれど、それまではなかなかどうして活躍してくれた悪魔だ。
するり、と僕にまとわりつくマカミ。
…。
あ、こいつ火炎無効も持ってたし、回復系スキル持ってたな。

?」

マカミ、今の状態の僕でも言うこと聞いてくれるかい?

「アァ」

こくり、と頷きながら僕の頬に擦り寄って、僕のマガツヒを少し食べていく。

「イイゼ」

じゃ、イガラムさんを守ってくれるか?

「人間ヲ?」

そのひょうきんな顔で僕の金色の目を見たから、僕はただ見返す。
ただの保険だ。
それ以上のことはしない。
悪魔のことは悪魔が、人間のことは人間がすればいい。
けれど…僕という異分子がいることで何かしら違うことが起きても、そう誰かが困るとどこかで思ったから。

「ソリャ、オ前ハ関係ネージャン? オ前ハ困ラネージャン」

そういわずに、納得してくれ。
僕だってよく判らないんだ。
誰かが困るからという理由で仲魔を使おうとしていることと、あの人を死なせたくないとどこかで思っている自分がいる。

「マ、イーヤナ。イガラムッテ奴ヲ最低限守レバイーンダナ?」

僕が肯定すると、マカミは頷いて僕が今来た道を反転した。

「任セトキナ」

イガラムさんのことは判るか?

「舐メンナ、名前サエ知ッテレバ存在グライ捕マエラレル。俺達ハ悪魔ナンダゼ?」

そっか。
僕は頷くと、走り出した。
よし、マカミのことだから彼を何とか守ってくれるだろう。
僕がようやくナミさんに合流したとき。

「暴れるな!!!!」

ルフィとゾロの二人を彼女が殴り倒す、その瞬間だった。
…。
あー…どんな風にあれで、どういう風にこうなったんだろう?
細かい部分を思い出さなくちゃな…。
僕は王女様…ミス・ウェンズデー、ではなくてアラバスタ王国の王女・ビビとカルガモの方に行く。

「あ、貴方は…」
〜、応急手当終わったのね?」

…ルフィとゾロを殴り飛ばしたのにもかかわらず、さわやかな笑みを浮かべるナミさんに、僕はこくりと頷いた。
さりげなくズタボロになった二人から視線をそらして。
やっぱり、ナミさんには逆らっちゃいけないんだ…。

?」

ナミさんの笑顔に僕はただ「なんでもない」というように首を横に振った。



それから僕達は場所を移した。
ビビ王女とナミさんの交渉の内容は知っているから、ゾロとルフィの会話に耳を傾ける。
ルフィはしきりに笑ってはいたけれど、どうもルフィの勘違いでゾロを殺しかけてゾロもそれに本気で受けて、殺し合いというか、まあそこまで行ったようだ。
「なんだよ、ゾロ。早く言えよ〜〜〜〜!」ってルフィは大笑いしてるけれど、それって謝っているうちに入るんだろうか。
まあ、二人が納得しているのであればいいけれど。
僕はゆっくり立ち上がった。
なんにせよ、この町から出るのは決定しているから出港準備をしなくちゃ。

「ん? どうした? 

僕はルフィを見返す。

「一人で平気か?」

頷いて、僕は歩き出す。

「酒、拾ったら入れといてくれ」

ゾロの言葉に判った、と僕は片手を上げた。

「え? ちょっと、はどこ行くのよ!!」
「「船に戻って出す準備しとくってよ」」
「いつそんな会話したのよ!」
「「今」」
「筆談も何もしてないでしょうが!」
「あいつの目、見りゃわかんだろ」
「今夜は結構わかるな、俺も」
「わかんないわよ!」

その声の後の打撲音は聞かなかったことのするために走り出した。
走っていくうちに、イガラムさんとすれ違った。
霊体化したマカミがちゃんとくっついているのを確認して、会釈をするとあの人は僕に対して深く頭を下げたのを目の端で確認して、僕は走る。
取り急ぎゾロに頼まれた酒は『サタン』を出して、その腕で樽を掴み船に収めた。
あれ?

「クェエエ」

カルガモだ。
僕は彼を一瞥する。
びくりと震えられるのは、たぶん動物のほうが僕の得体の知れない存在を恐れているんだろう。
動物は見た目で判断しないから。
ふいっと視線をそらし、ただ僕は作業を続けた。
よし、後は錨をあげるだけ。



ドォンン!! 




ルフィのいた方角の港から明るい光と爆音が聞こえた。
…イガラムさんがやられた…けれど、マカミがついてるから大丈夫だ。
彼は死なない。
怪我は負うかもしれないけれど。

「おい、! どんな按配だ!!」

ゾロが軽い身のこなしで船に乗り込む。
錨を指差すと「判った!」と言って一人で全部引き上げてしまった。

「おっつけルフィがウソップたちを連れてくる。全員乗り込んだら出発だ」

頷いて僕はただ皆を待っているとルフィが二人を引きずりながら、そしてナミさんとビビ王女がなにか言い合いをしながらやってきた。




さぁ、出航だ。



2007.04月頃UP

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