「いやだぞ、俺。はずっと俺達と一緒にいるんだ」

あの町でちゃんとかつて一緒にいた子供達に「心を治して、そしてをその町に帰そう」とナミさんとウソップの三人で約束してきた、なんて言うとずばりとルフィが却下した。

「だから、グランドラインを一周した後で…っ」
「やだ」

ルフィは麦藁帽子をかぶりなおした。

「…少なくともに決めさせてあの子が戻るって言ったら?」
「ん〜、そん時は無理やり乗せてくしかねぇな」
「「おい」」
「やだ! あいつの金色目玉が俺の傍にないのはやだ!」
「だから今すぐってわけじゃなくて…」
「やだ!!」

こりゃ説得するのに時間と手間がかかりやがるな、とは思ったさ。
なにせうちの船長はクソしつこいったらねぇし、頑固でわがままだしな。
ちゃんのあの瞳が気に入っているのか、それともちゃん自身を気に入ってるのか、いまいちわからないけれど。
数日前のそのやりとりを思い出したのは。
確かにちゃんの金色のこの瞳が、ルフィやゾロの言うとおり、ちゃん自身の言葉を俺達に放ちはじめているのを理解して…。
その意思の光が、この瞳が傍からいなくなるのは、いやだと思ったからだ。



あの直後。
俺がMr3に変わってMr0と会話し、アラバスタ行きのエターナルポースを手に入れたあの後のことだ。
ちゃんはルフィにつかまっていた。
ナミさんたちのあの刺激的で嬉しい姿にどきどきしてたが、ちゃんもシャツを脱いでいた。
…白いシャツが、血で変色したそれに俺は眉をしかめかけた。
ペルソナの能力で自分の傷は治せるらしい。

…。

それもあって、自分を大事にしないのかもしれねぇな、ちゃん。
上半身は男のそれなので、船に戻るまで上着を着ないままでいるようだ。

「おそろいだな〜、。行くぞ〜」

ルフィが手を差し出すと、ちゃんはいつものようにあまり力のこもっていないあの金色の瞳を向けてから、どことなくあきらめたように手を差し出し返し、ルフィは、それが当たり前のように手をつないで歩き出した。
おそろいって…あぁ、二人とも上着てないってことか。
俺はちゃんの薄い身体を見下ろす。
腕にはうっすらとだが切り裂かれたような跡が残っている。

「てめぇがいながらちゃんに怪我させたのか、くそ剣士」
「あぁ」

小さくゾロに言うとそう返ってきた。
視線を奴に向けると、いつもの面だったからまたちゃんに戻す。

「俺があんなもんさえ、斬れてれば誰の手間もかけさせるこたぁなかった」

ゾロの呟きが聞こえる。
…これ以上、こいつに言う言葉はない。
タバコに火をつけて銜える。
ゾロとの狩勝負は脳内は俺の勝利に終わり、(ウソップの引き分けなんて言葉はきかねぇ)肉を切り分けて船に詰め込んだ。

「これ着とけ! な?!」

そんな声が聞こえたかと思うと、ルフィが自分のあの赤いノースリーブを着せていた。

ちゃんは半分、女の子だぞ! ナミさんコーディネートの服じゃないと…!」

俺がそういうものの、ちゃんは優しいからかそれともルフィがしつこいだろうからか、素直にそれを羽織って大丈夫だ、というように俺にジェスチャーしてくれる。
俺はため息をついて、それからナミさんの指示に従った。
船がゆっくりと、だがじょじょにスピードを出して海に向かって走りだす。

「お! あのおっさん達だ」

俺達も、そしてちゃんもルフィの指差す方向に視線を向けた。
なにがあってもとにかくまっすぐ進め。
そう力強く言われて、うちの船長は「わかった!!! まっすぐ進む!!!」と答える。
船は真直ぐに進路をとった。

「見て、前!!」

ナミさんの言葉に俺達は前を向いた。
盛り上がる海。
見えてきたのはでかい金魚。
もちろん、よけろと叫んだけれど間に合わなくて。
いや、その後だ。
ばくん、と船ごと飲まれてパニックになった俺達の耳に飛び込んできたのは。

「「まっすぐ!! まっすぐ!! まっすぐ!!」」

ウソップとルフィのそんな声だけではなくて。

友の海賊旗は決して折らせぬ、そう言った


静かな子供の声に俺とナミさんにビビちゃん、そしてくそ剣士の目がそこに向かう。
自分の能力を封印して、言葉を失ったちゃんの身体は発光していた。
赤いノースリーブがはためいて、身体にその光が線を描いているのがわかる。


戦士は約束を必ず果たす。約束は誓約、誓約は契約


歌うようなその言葉は、確かに、ちゃんからだ。


だからこのまま
「そう! このまま!!」

ウソップがちゃんの言葉とも気がつかないままに言葉を続けた。

「「まっすぐに!!」」

ルフィの言葉がそう重なったとき。


「「覇国!!」」



巨人達の声と同時にすさまじい衝撃がかかり、俺達は金魚の腹から外に飛び出せた。
海ごと、切った。

「「さぁ!! 行けぇ!!」」

巨人たちのその声に、ルフィは歓声を上げた。
そして俺はちゃんを見る。
もうその姿はいつものとおりで、まるでさっきのことが夢だったかのようにも思えたが。
けれど。
あの、子供の声は確かにちゃんのものだ。
嬉しかった。
言葉を封じたはずの彼女が、おそらくはナミさんやビビちゃん、そして俺達の不安を感じて、それを案じて、声を出して落ち着かせようとしてくれたのだろうと思う。
なぜならちゃんは自分の身体がどうなろうと、そして自分の中の大事なものも犠牲にして他人を守ろうとする子だから。
周りの人間を守ろうとしてくれる子だから。
飛んでいたメリーが海面に着地すると、ウソップとルフィが肩を組んで歌いだす。
ちゃんはゆっくりとした足取りで、まるで何もなかったかのようにいつもの無表情で船室に入ろうと俺の隣を歩き出した。
目を見る。
少し前までは意思の光がない瞳の奥に…何か見えそうで見えない、感情があるようでなさそうな、そんなあやふやなものを感じてたけれど。今は本当に小さなものだけれど、確かにそこに意思を感じる。

「おい、今、お前しゃべらなかったか?」

くそ剣士の言葉に喜んでいたウソップとルフィの動きが止まった。

「そ、そうだーーー!! 確かに声が聞こえたーーー!!」
「封印といたのか? え? そうなのか? 〜〜!!」

ぐるり、と面白いように首を回しながら聞く二人に俺の傍でちゃんはその、一見うつろな瞳をあいつらに向けた。
その瞳が、またすっとぼけた感じで。

「なんだよーー!! 「僕、知らない」ってなんだよーーー!!」

その目を見てルフィがだんだんだん! と地団駄を踏んだ。
正確に(たぶん、合ってるんだろう)ちゃんの心の声を言い表せるのはうちの船長だけだと思ってたけれど。
確かに俺もその金色の瞳を見ていて、感じた。



空耳だよ、きっと



さっきの子供の声でそんな風に言われたような、そんな気がして。
ビビちゃんもそれがわかったのか、ナミさんと顔を見合わせた。
少なくとも、何を伝えたいのかが言葉を聴かなくても判る。
無表情で、感情が読めないはずなのに、俺達には理解できはじめてる。
それはちゃんが俺達に心を開きかけてるのと同じことで。(本人にはその意識はなかっただろうけれど、だ)
だから、俺達は笑いあった。
あぁ、確かに。
孤児院のあの子供達とは約束しちまったから、一度は帰さないといけないことだろうけれど。
でもちゃんが、この一味から離れていくっていうのはいやだなぁ。
俺はそう思いながらすってたタバコを携帯灰皿に押し付けた。
さぁておやつでも作りますかね。




2007.04月頃UP

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