ナミさんの熱い額にタオルをおいていく。
あぁ、そうだ。
今頃思い出したってなんの役にも立たないけれど、ドラムに行く前にナミさんが倒れた。
おそらく気候のせい、と言っているビビ王女に、その話を聞いているルフィたち。
…この船の航海士はナミさんで、この船の今現在の医療の知識の源はナミさんで。
僕はこの後、ドラムで船医が彼らの仲間になることも知っているけれど。
けれど。
今、苦しんでる人を助けられないのはいやなんだ。/それは未来に必ず助かると知っていても

マガタマの言葉に僕は小さく頷いた。
とりあえず、僕のペルソナのスキルは他人の傷を癒したりできるものはないから、仲魔の力を借りないとだめだろう。
ストックの中仲魔たちとのリンクはまだまだ切れたままなのだけれど…。

「「「ぎゃあああああああ!!!!」」」

え?

「ナミは死ぬのか?!」
「ダビダンジラバイベーーー!!(ナミさん死なないで)」
「あああああああ!!!」
「くぇええええ」
「うろたえないで、静かに!!」

ナミさんに響くんじゃないかな、と思ったら当の本人が無理して起き上がった。

、私のデスクの中に新聞があるからそれをビビに」

僕は言われたとおりに新聞をビビ王女に手渡した。
アラバスタ国王軍30万人が反乱軍に寝返ったというニュースがその新聞には載っていた。
日付は三日前。

「…判った? ルフィ」
「…! 大変そうな印象を受けた」
「そういうことよ。思った以上に伝わってよかったわ」

ルフィとナミさんの会話を聞きながら、僕は彼女の好きにさせることにした。
今はだめだ。
どうやったって彼女は強がってアラバスタに直行と言うのだから。

「…このままじゃじきに国中で大量の血が流れる戦争になる。それだけは…阻止しなきゃアラバスタ王国はもう終わりだ…!クロコダイルに乗っ取られちゃう」

ぐしゃり、と新聞をつぶす音に目をナミさんからビビ王女に向けた。

「もう…無事に帰り着くだけじゃだめなんだ。一刻も早く帰らなきゃ、間に合わなきゃ100万人の国民が無意味な殺し合いをすることになる」

だから、アラバスタ王女に決めてもらわないことには。
僕はナミさんの頭においておいたタオルをキッチンにもって行くと、そのまままた使えるように冷えたものを用意する。
そのうち、ゾロの呼ぶ声とばたばたとした足音が聞こえた。
船の方向が変わる。
ナミさんの怒鳴り声が聞こえてくる。
まずいな。
僕が外に出ると、ビビ王女が外に出てきた。

「…だったらすぐに医者のいる島を探しましょう」
「!」

一刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!! それがこの船の【最高速度】でしょう!!?

知っていたはずの、たぶん忘れていただけできっと頭のどこかでは読んだり見たりして知っていた彼女の強さに、僕の中の何かが引きずられる。
彼女は決意して、そして決定した。
なら、僕も努力してみてもいいんじゃないか?
僕はストックに呼びかける。
皆がナミさんが避けることができたサイクロンに驚いている間に、マガタマのひとつに触れて呼びかける。
今の僕は人間の状態だけれど、呼びかけることは出来るはずだ。

来てくれ。/何のために
助けたいんだ。/どうして?
仲間だからか?違う。
本当に?…。

僕はマガタマたちの言葉になにも返せない。
そんな僕達の問答に小さく笑いながら、ようやく仲魔の一人が答えてくれた。

「人修羅、久々!」

妖精ピクシー。
…そういえば、僕のことを大悪魔って言ったのはこの悪魔だったけ?

「ちょっ、ちょっと何!? なんであたしが虫みたく捕まえられなきゃいけないのよ!!」
「おー、ムシニンゲンじゃねぇか!」
「え、えぇ?! 妖精?!」
「くわー!」

とりあえず、役に立ってくれ。ピクシー。

僕の心の中の言い草に、マガタマたちはそろって笑った。




「結論から言わせてもらうわよ、人修羅&人間ども」

ムシニンゲンだ〜とか言い出すルフィをウソップに抑えてもらいながら、僕はピクシーと一緒にナミさんを寝かしつけた部屋に集まっていた。

「あたしにはこの人間の病気は治せないわ」
「え?」

ビビの呆然とした顔。

「なんでだ? 妖精ってなんでもできるんじゃないのか?」
「おばかさんねぇ」ピクシーはナミさんの頭の上に跳ぶ。
「あたしの魔法でできるのは大怪我治すことぐらい。この子は病気でしょう? 病気をなおせる力はあたしは持ってないわよ」
もか」
「人修羅もね。この子は戦うことだけを重点に自分を作り上げた悪魔だから、他の生き物を治すとかいうスキル、持ってないの」
「つくり、あげた?」

ウソップの言葉を無視する。
今は僕の話じゃない。
ピクシー。

「なぁに? 人修羅」

ナミさんの病状は?

「見た目どおりね。…っていうかこの子のは気候とやらのせいじゃないわよ。たぶん、なんかの虫にかまれたかなにかの感染症ね」

…確か、そうだっけ。
今、思い出した。
なかなか役に立たない僕の記憶。

「え?」
「疲れ、とかそういう類のものならあたしの魔法で体力回復させ、寝かしとけば大丈夫よ。けど、感染症とかそういうのは違う。体力回復したところで体内にあるウイルスは身体をより侵食するの。だから下手に魔法で回復させるのはよくないわ」
そうなの?
「そうよ。回復したらその分ウイルスの進行を促進させちゃうわ。…この調子だと一回死なせてすぐに生き返らせたって無駄ってとこね。生き返ったその直後にウイルスは活動を開始するからおんなじこと」
「…あのー、その口ぶりからして死人を生き返らせることが出来るっぽく聞こえますがー」

ウソップの疑問にピクシーはしれっと応えた。

「できるわよ、死にたてほやほやで生きる気力を残してる奴ならね」
「「妖精ってすげー」」

目をきらきらさせてるルフィとウソップは無視。

「妖精みんなが出来るわけじゃないわよ。このあたし、人修羅の仲魔であるこのピクシーが特別なだけ。あ、言っとくけど人間相手じゃそんな魔法ほいほい使わないからね? 使うときはそれなりの対価をきっちり貰うわ」

ピクシーが胸を張っている間に僕はビビと一緒にナミさんの額にある濡れタオルを新しいものに取り替える。

「この船動かしてるのは誰なの?」

メリーとナミさん。
僕の心の中の言葉と一緒にルフィたちの指先がナミさんに向かう。

「そう、なら大変ね。ここグランドラインとかいう奴なんでしょ? 航海士の指示がなきゃ船動かせないし」
「えぇ…なんとか医者の居る島を探してる途中だけれど…」

ビビ王女が目を伏せる。
ピクシー。

「なぁに?」

僕と精神的にどこか繋がって会話できる妖精はわざわざそういいながら、くるりと空中でターンした。

「なんか命令?」

僕は君に命令はしたことないんだけどな。

「判ってるわよ。…で?」

船体を守るのと、医者がいる島を探せないの? 空飛んで。

「…空飛んで探すっていうのも限度があるわよ」

じゃ、他には?

「しょうがないわねぇ、じゃあちょっとだけ試験的なことも含めて、だけど手伝ったげる」
「なにしてくれるんだ」

サンジの声にピクシーは笑った。

「試験的なものだから、一応サービスよ。本当だったらあんた達のマガツヒだとかいろいろ対価に貰うんだから!」

びしっとピクシーはルフィやサンジたちを指さしてそういいきると、くるりとターンして消えた。
次に出てきたとき、僕も表情には出せないけれど少しびっくりした。
甲板に行くと三つの種類の精霊たちを引き連れて出てきたピクシーが命令する。
アーシーズを引き連れた一部のエアロス達が船の四方に飛び、アクアンズたちは船底や船体の脇につくと船足を速めた。
仲魔が悪魔を使ってる…!?
これが試験的なことなのか。

「今、何やったんだ?」ゾロが目を細めた。「あのムシニンゲン、なんもねぇとこになんか言ってたな」

…精霊は純粋な人間に見えないのか。

「ムシニンゲン!」
「妖精だって言ってんのよ! このバカ人間!」

ピクシーがそういいつつ僕の頭に立って、びしり! とまた皆を指差した。

「いいこと?! この船は水の精霊くっつけて船足早めたわ。あと、今土の精霊を風の精霊たちと一緒に運んで人間が島を探してもらってる。あいつらが戻り次第、針路をその島に向けて動かしてもらうわ。なんの行き先も定めずに動き回るよりもましでしょ」

「ほんとか〜!!」
「くぅ!! 希望が見えてきたぞ〜、ナミ!!」
「ありがとう、小さなレディ!!」
「…別にお礼なんていいわよ。人修羅の御願いもあったし、これはあたしにとっても益になる行為だし」

つん、と澄ましながらピクシーはふわり、と飛ぶ。

「でも人間が居る島ってことだけだから医者が居るかどうかはわからないから、それだけは頭に入れときなさいよ! あと、島が見える範囲までこの船に居てあげる。だから見えたら精霊とあたしは戻るから」

どこに、ということは皆聞かなかった。

ありがとう、ピクシー。
僕がそう心の中で言うと、ピクシーは僕の目の前に来る。

「いいえ、どういたしまして」

苦笑いを浮かべて、僕の頬に抱きつくとピクシーは笑った。
でも、僕。僕のことを大悪魔って皆に言ってたことは根に持ってるよ。

「え」

ぴたりと、動きを止めた妖精に対してこの船の船長が顔を覗き込んで笑った。

「あんがと!! ムシニンゲン!!」
「…だから妖精だって言ってんだろうがーーー!!!」

僕の言葉の八つ当たりなのか、ステータスオール30の飛び蹴りが船長の顔にクリティカルヒットしていた。
……とにかく、ナミさんのお世話をしないと。
あと、精霊たちが早くドラムの位置を見つけてくれればいいけど。
ぎゃあぎゃあと言い合うピクシーとルフィ、そしてウソップの声を背景に僕はうっすらとそう思った。



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