暖かい空気と、暖炉の薪がはぜる音。
あたしが目を開けるとそこは石畳の部屋の中だった。
ごりごりと何かをすりつぶしている音も聞こえてきて…そう、ここが船の中じゃないことは確か。
目を周囲に向けると、小さなベットが視界に入る…黒い髪に小さな身体…ってことは。
!?
どうしてが?!
まだ少し熱っぽいけれど、前ほど苦しくないので身体を起こす。
何か作業をしていた、誰かを見つめた。
ピンクのシルクハットに、鹿の角…?
視線に気がついたのか、その誰かは振りかえった。

「誰…?!」
「っ!!」

驚いたのか、その誰かは隠れたつもりなんだけれど…。

「それって、逆なんじゃない?」
「!!」
「…遅いわよ。隠れきれてないし…。なんなの? あんた」
「う、うるさい!! 人間!!」

ニンゲン…って確かにあたしはニンゲンで、この子は…えーと、なんなのかしら?

「それとお前熱大丈夫か」

小声。
ん?

「しゃべった〜〜〜!?」
「っ!」

あたしがびっくりして(いまさらだけど)大きな声を上げると向こうも驚いたようで、隠れに行った部屋のほうでごたごたと何かモノを落としている。

「煩いよ、チョッパー!!」

そして入ってきた、細身のおばあさん…ドクトリーヌにあたしはあたしがかかっていた病名を聞くことになる。
ルフィとサンジくんは隣の部屋で寝ているのを聞いて、はあたしと一緒にこの部屋で寝ている。
5日病っていうのは驚いたけれど。
でも、どうして?
どうしてが…。

「あの子かい?」

ドクトリーヌが酒をあおった。

「…あの子は、人間かい?」
「え?」
「あの麦わらの男よりも比較的軽症な凍傷と手の傷だけだったけれど、念のため服をひん剥いたのさ」
「あぁ、上半身が男の子、下半身が女の子だったんでしょう? そういう人間だっているわよ、グランドラインには」
「違うさ。そんなこたぁ、どうでもいい

そんなこと? ちょっと何よ、それどういう意味?

「25個」
「え?」
「全部であわせて、25個の生き物か何かがあの子の身体の中にいる

ドクトリーヌはあたしの目を見た。

「あたしゃ長いこと医者やってるけどねぇ、あんな生物は知らなかったよ。この世には悪魔の実の能力者もいるって聞いてるけれど、たとえ能力者でもあんなものを身体の中にすまわせているなんて話は聞いたこともない」

あたしの身体をそのままベットに倒す。

「それになにやらあの生き物は、意思らしいものを持っているようだ…。もう一度、聞くよ? あの子は本当に、人間かい?




僕は悪魔です。
ルフィに言わせるとすかすかの金色の瞳で、馬鹿丁寧な文章をつづったの姿が思い出されて。

「優しくて、自分を犠牲にして他の子を守ろうとばかりしてる、おバカな子」

いつだって傷ついていた。
そして実際に傷ついた姿をあたしはついこの間見た。
孤児院の子供達を、女の子を守るために自分を売って、暴力に耐えて、心を壊していった
あたし達を守るために戦ったあのときも、は血まみれになりながらも自分の治療ではなく、あたしたちを優先した。

「誰か大人がちゃんと叱ってあげないと、いつまでも自分が犠牲になればいいと思ってる…そんな子供よ」

けして他人を見捨てようとはしない。

「人間かい?」

ドクトリーヌの言葉にあたしはベットの上で笑う。

「本人は悪魔だって言ってるわ。けれど仲間になるのにそんなもの、関係ないもの

そう、関係ない。

悪魔だろうと、化け物だろうと、人間だろうと…あたしの大事な仲間なのよ。…文句ある?

イーヒッヒッヒッ。
ドクトリーヌは特徴のある声で笑った。
そうだ、お礼を言ってなかった。

「どうもありがとう、熱さえ下がればもういいわ。後は勝手に治るんでしょう?」

の様子も気になるけれど、ルフィたちに背負わせれば移動はできるだろう。

「甘いね、お前は。本来なら治療初めて完了まで10日はかかる病気だ。またあの苦しみを味わって死んじまいたいなら話は別だがね。あたしの薬でも三日はおとなしくしてもらうよ」
「三日!!? 三日なんてとんでもない!! ビビを早くアラバスタへ…!!」

次の瞬間、あたしの身体は押さえつけられ喉元にはメスが光っていた。

「あたしの前から患者が消えるときはねぇ…っ、イーヒッヒッヒッヒ…治るか死ぬかだ。にがしゃしないよ…!」
「うぅっ」

なんて医者よ、まったく!
しばらくはおとなしく寝ていて、隙を見て逃げ出さなきゃ。
あたしはちらりと目だけをが眠っているベットに向けた。
メスが離れて、ドクトリーヌが離れていく。

は…?」
「お前さんよりも軽症だがね。肺炎になりかかっているうえに手足の凍傷に加えて、軽く麻痺している。身体の中のあの異物たちが何もしないということを踏まえたうえでのことだがしばらくは動けないよ」

今のあたしよりも重症じゃないのよ。
まったくうちの船長はに何させたのよ、あとで絞めなきゃ。
そうこう思っていたら隣でものすごい大きな音がした。

「ん?」
「助けて〜〜〜〜!!」
「んが〜〜、まぁて、肉〜〜〜!!」
「ぎゃあああああああ!!」
「待てルフィ!!こいつは俺が調理する…!!」

起きたのね、二人とも。

「あ、ナミ!! なんだお前治ったのか?」
「ナミさ〜〜〜ん」
「おかげさまっていいたいとこだけど、ルフィ! あんたに何させたの!!」
? そうだ! 隣にいなかったぞ!!」

ルフィは慌てたように周囲を見渡しての姿をもう一つのベットの中で見つけると「何寝てんだ?」と手のひらをの額に当てた。

「あちぃ! の奴、熱があるぞ!!」
「何ぃ!? ちゃん!?」
「あぁー、煩いよ、お前達」

ドクトリーヌがそう言おうとした時だ。

「あ、起きた。……お前、大丈夫か?」

これほど優しいルフィの声って聞いたこと、なかったわ。
どうやら少しだけ目を開けたのかしら。

「どうした? なんで熱なんか……………へぇ、そうなのか。じゃ、ゆっくり寝てろ。今、美味そうな肉見つけたからサンジになんか作ってもらおう。な?」

ルフィはそのままを寝かしつけたみたい。

ちゃん、なんだって?」
「ん? 封印を強引に解いちまった反動が来てんだと。寝てりゃあ治るって」

封印を、解いた?

「ちょっとまって。封印といたって…悪魔の姿に戻ったの?!」
「戻らなかったらサンジの奴運べなかったんだからしょうがねぇだろ」
「なに〜〜〜!! 俺を運んでくれたの、ちゃんかーーー!!」
「おう」

「くぅっ!!」サンジ君がむせび泣く。「俺の、俺のせいで…!! よぉし、待っててくれちゃん、そしてナミさん!!」

拳をぎゅっと固めるとサンジくんは言い切った。

「今、精のつくシカ料理を…!」
「ひっ!」

そして二人とも、あのピンクのシルクハットの生き物に目を向けた。

「「待て〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」

ちょっとルフィ、サンジくんも静かにしなさいよ。
が寝てるのに…ってルフィにの本当の姿がどんなのか聞きそびれた!!

「驚いたねぇ。…あいつらもう動けるのかい」
「なんなの? あの鼻の青いしゃべるぬいぐるみ」
「あいつが何かって?……名前はチョッパー。ただの青っ鼻のトナカイさ」
「トナカイはしゃべらないわよ」
「ただのトナカイと違うとすれば、奴がヒトヒトの実を食べちまったってことだけ」
「…ヒトヒトの実…悪魔の実ね」
「あぁ…奴は人間の能力を持っちまったトナカイなのさ。そして…あたしの医術の全てを叩き込んである…!」

医術の、全て。
あたしは走り抜けて行ったトナカイの姿を思い返した。
しばらくしてトナカイに殴られたといって戻ってきた二人は、眠ってるあたしとのすぐ傍でドクトリーヌに食事を用意させた上で海賊に誘い出した。

「船には医者が必要なんだよ、ばあさん!!」
「今、ばあさんって言ったかい…?」

もうその後はものすごい音と大声の連続。
チョッパーっていうあのトナカイが様子を見に来たのをルフィとサンジ君が気がついて、ドクトリーヌが怒って…まったくもう。
あたしはともかくは寝てるっていうのにしっちゃかめっちゃかだわ、あいつら。

「料理はいいからおとなしくしておいてほしいわ…」

ドアが開けっ放しになってるせいで冷たい空気が入ってくる。
見れば雪が混じっていて…城の中のはずなのに…。
だめよ。の身体に悪いわ。

「お前、寝てろよ」

そう言ってくれて扉をちゃんと閉めてくれたのは、さっきの青い鼻のトナカイだった。

「…お前ら海賊なのか」

そういいながらこわごわあたしに触れようとするトナカイ。

「えぇ」

つん、と蹄があたしの手に触れてすぐに離れる。

「本物か?」
「本物よ」
「どくろの旗、持ってるのか?」
「船についてるわ」

これは、いけるかもしれない。

「海賊に興味あるの?」
「ねぇよ! バカ!! ねぇよ!!」
「あ〜…判った判った…。じゃあ、あんたも来る? 海」
「おぉおおおお?!」
「一緒に来ない? そうしたらあたしも助かるわ。船に医者がいれば、ここに三日もいなくていいでしょ? それに今、うちの船には…」

バカいえ!! 俺はトナカイだぞ!! 人間なんかと一緒にいられるか!!!

僕は悪魔だから貴方達の仲間じゃない。

「だいたい、お前、俺を見て怖くないのか?俺はトナカイなのに二本足で立ってるし、しゃべるし…」

悪魔だから。
今、あたしはこのトナカイとをダブらせた。

「何、あんたあたしを怖がらせたいわけ?」
「青っ鼻だし…」

うつむいたトナカイは、その後追いかけてきたルフィから逃げるために部屋から出て行く。
それからあたしはドクトリーヌにトナカイの話を聞いた。



群れからも親からも見離され、悪魔の実を食べたせいで化け物扱い。
それでも仲間がほしくて人里に行けば、そこでもやはり化け物扱い。



「…お前たちに、あいつの心を癒せるかい?」

あたしは黙った。
癒せるとは、あたしには言い切れない。
けれど。
でも。





そのうち、ルフィがその気になって彼を追い掛け回すのに、そう時間はかからなかった。

「あんた何してんの?」
「こいつ、俺達の仲間になるんだ!」
「あら、そうなの?!」
「俺はそんなこと言ってない!」
「言ったろ!!」
「覚悟しなさいよぉ」

あたしは笑顔になっていた。

「え?」

トナカイはあたしを見つめる。

「うちの船長は悪魔っ子も仲間にしちゃう海賊なんだから」

はまだ眠っている。
が寝ているベットにあたしとサンジくんは目をやって、そして笑いあった。

「生半可に断ったって、無駄無駄なんだから〜」
「あ、悪魔っ子って、あいつ?」
「なぁ! トナカイ、海賊は楽しいぞ〜〜〜〜〜!!」

そう、たぶんあたしには無理かもしれないけれど。
うちの船長なら、癒せるのかもしれない。



なにせ悪魔っ子の心を、元も戻そうって、その瞳を輝かせようって思ってる、太陽みたいなうちの船長なら。


再UP中

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