「、起きれる?」
ナミさんの声に僕は目を覚ます。
だいぶ寝させてもらってたみたいで、少し落ち着いた。
さっきルフィが覗き込んできたと思っていたけれど、夢だったんだろうか?
ただまだ手足が言うこと聞かないけれど。
「寝てる場合じゃなかったの。おんぶしてあげるからこの城から出ましょう?」
ナミさんの病気は?
僕が目を向けると「あたし? 平気よ。熱が下がったから、きっと死なないわ。死ぬつもりがないんですもの」という言葉が返ってきた。
僕はなんとか身体を起こした。
ぎしり、と痛みがあって中のマガタマたちがそんな僕をあざ笑う。
子供の身体でもなんでも、意識がなくなったものっていうのは重たいものだからなんとか自力で歩こうとしたけれどいつもよりもやっぱり動きは遅い。
「ほら、早く」
ごめんなさい。
僕は素直に謝ってナミさんにおぶわれて、部屋を出た。
「ドクトリーヌのいない今、逃げなきゃ…。三日も拘束される、なんてたまったもんじゃないわ…」
三日?
「しっかりつかまってんのよ……って…」
部屋から出ると冷たい空気が僕達の頬に当たる。
ぶるり、とふるえているとそれと僕は目が合った。
「だーはっはっはっはっは!!」
「なに、あいつ…っ」
「さては麦わらの仲間だな!」
「、あれはどう見ても、敵顔よね。返事しちゃだめよ…」
小声で僕にそう言ってから、ナミさんは大きく声を張り上げた。
「うぅん、なにそれ?! ぜんっぜん違うわよ!! なんのことだか、あたしたちぜんぜん判んない!!」
「え? 違う?? そうなのか?」
「そうなの。あたしはただの通りすがりの航海士」
「なぁんだ、そうか」
「じゃ、そういうことで」
ナミさん、ごまかされてくれないみたいだ。
ナミさんの言葉を聞き終わったへんな奴はそのまま柱をよじ登り始めた。
「嘘付け!!!」
「いや〜〜〜〜〜!!!!」
ナミさんすごい。
僕をおぶったまま全力で走り出したけれど、結局は相手の悪魔の実の能力でおいつかれる。
「っ!」
ペルソナを呼んで、サタンで吹き飛ばせば…!!
僕がそう口にしようとすると、身体にぎしりと重圧がかかる。
っ!
これも、反動か…っ!
僕とナミさんは一緒に床にたたきつけられた。
「ん? なんだこの小僧は!! こいつから先に食ってやる!!」
ちゃりん。
ちゃりん?
「見っけ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
次の瞬間、伸びてきたルフィの足がそいつを蹴り飛ばして、近くにあった壁にたたきつける。
痛かった、な。
「大丈夫? 」
僕はナミさんに頷きで答える。
本当は、だいぶ、痛いけれど。
こういうとき顔色が変わらないでくれるのは助かる。
「あんにゃろ、に何しやがる!!…ってあれ? あいつあんなに細かったか?」
「あ〜〜、ルフィ!!」
ナミさんがルフィを殴って怒ってる間に、なんとか僕は立ち上がった。
間接とか痛むし、頭もずきずきしてきたのはさっきの…変な奴が掴んできたからだと思う。
深く深呼吸すると、げほりと咳き込んだ。
「「!!?」」
大丈夫、だ。
なんともない。
僕はナミさんに支えてもらって、またおんぶしてもらった。
「LooK!!」
あの変な奴が指差してなんか言ってるけれど、頭ががんがんしてきて、もうどうでもよくなって僕は目を閉じる。
…なんか、変な感じだ。
この僕が、熱出してるなんて。
しかも、殴られて腫れてっていうわけじゃなくて、病気でだなんて今までなかったことじゃないかな?
ナミさんの心臓の音を聞きながら、僕はそのまま意識を落とし込んだ。
次に目が覚めると、ビビ王女が僕の顔を覗き込んでいた。
ナミさんが見たことのないコートを着込んでいる。
近くのベットには知らない男の人がいた。
「くん、移動するわ」
「ごめんね、」
僕は今度はビビに背負われている。
サンジはどうしたんだろうと見ると、ずるずると二人でひきづってるのが見えたけれど大丈夫なんだろうか?
城の外に出ると、ぼろぼろになったナミさんのジャケットをまだ着たルフィと雪遊びしてるウソップ。
「起きたか〜、」
「ん? おい! なんでが背負われてくんだよ! 怪我してんのか?!」
「あいつ、ペルソナ出せねぇのか? ペルソナで治るだろ、怪我なら」
「じゃ、病気か〜!? 大丈夫なのか〜〜〜!!」
ウソップがそういいながら近づいてきて、手袋から手を出すと僕の額に当てた。
「…ちと熱いな。にしても、どうした。ケルベロスって奴もついてたんだろ? 今はいねぇみてぇだけど」
「犬は山のふもとまでって約束だったみてぇだしな。はサンジをこの上まで運ぶのに封印といて元の姿に戻ったんだ。その反動で動けねぇんだ。なぁ?」
ルフィが僕の顔を覗き込んで、それから「、かしてくれ。俺が背負う」とビビ王女の背中から移動させた。
「反動って…。そんなにへたばるもんなのか? おい」
ゾロの言葉に僕はしばらく考えてから、こくり、と頷く。
ただ、手順を全部吹き飛ばしたせいもあるのだけれど。
そう思いながら目を見つめると。
「…あぁ、なんか判った。お前、むりやり解いたんだな?」と理解してくれるゾロがいる。
なんで判るんだろう、この人たち。
「で、どんな姿だったんだ。の元の姿って」
ウソップの言葉に、ルフィはにっこり笑った。
いや、にっこりっていうよりも、にへら〜と、表現したほうがいいのかな?
そんな笑み。
「ししししししっ、それは秘密だ!」
「なんでだよ! 教えろよ!!」
「にしてもお前、俺との約束ちゃんと守ったなぁ」
約束?
ウソップの言葉を無視して、くるり、と僕を背負ったままルフィは回った。
「お前の本当の姿、一番最初に俺に見せるって言ってたじゃないか」
言ったっけ? それってただ勝手にルフィが僕に「見せろ」って言ってただけだった気がするんだけど。
「あとはずーーっとあの姿でいるようになれよーー?」
それは無理です。
瞬きをしてそう思いつつ、ルフィの背中にしがみつく。
なんかテンションが高いんだけれど、どうしたんだろう?
「そうそう、。仲間が一人増えるからな!」
あぁ、あのトナカイ…チョッパーが仲間になるんだ…君達の。
「お前の仲間が一人増えたぞ〜〜〜」
…違う。
君達は、僕の、仲間じゃない。
…。
…。
僕は黙って目を閉じた。
そういえば、今夜は満月なんだな…。
「トナカイ〜〜〜〜、出て来いよ、トナカイ〜〜〜!!」
…って今から説得かよ。
そのルフィの言葉に出てきたトナカイの言葉は、僕の心によく響いた。
「だって俺はトナカイだ! 角だって蹄だってあるし…、青っ鼻だし!!」
だって僕は悪魔だ。封印を解けば、君達の力を捕食するかもしれない。
「そりゃあ、海賊にはなりたいけどさ…っ…俺は人間の仲間でもないんだぞ!! 化け物だし!!」
…元人間ってことだけだ。
心の力、ペルソナだって普通の人間には使えない力で、『化け物』には間違いない。
「俺なんか、お前たちの仲間にはなれねぇよ!! だから…」
だから僕は君達とは仲間にはなれないはずなんだ。
僕の気持ちとかは関係なくて。
「うるせぇ!!! 行こう〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
その全てを吹き飛ばすルフィの言葉が、体にも心にも浸透する。
相変わらずの力技な説得に、トナカイは「おぉおおおお!!!」と答えていた。
僕は…。
僕は…。
お前はとっくに決めている。今は頭で理解できなくても無意識のうちにな。
マガタマのそんな声を聞きながら、僕はルフィの背中で満月の淡い光を受けていた。
しばらくしているとゾロが僕を抱っこしてくれて、ルフィとウソップがロープーウェイの準備をしだした。
山を降りる。
「おい、来たぞあいつ…ん?」
ゾロの言葉に僕は目を開く。
ドクトリーヌと思える彼女が、トナカイが引くそりを追いかけてこっちに来ていた。
「ど、どういうこと!?」
「皆ぁ、そりに乗って!! 山を降りるぞ!!」
「うぉりゃあああ!!!」
「「「「「なぁにぃいいい!!!!」」」」」
ドガァ!!
ドクトリーヌが投げたそれは僕達のすぐ近くに落ちた。
ゾロが僕を抱き上げて、トナカイのそりに乗って山を降りた。
「ひゃっほ〜〜〜!!」
…あぁ、このままだとあの言葉はトナカイは知らないまま。
それは、なんとなくいやだった。
エアロス。
僕はピクシーから借りた風の精霊に呼びかける。
ぎしり、とか身体が言ってるけれどかまわない。
来い。
強い言霊でそう念じると、一瞬で船から僕の傍にやってきた。
「ん? 今、何した。風が…」
僕を支えてるゾロには判っちゃうか…でもかまわない。
風が僕とゾロの髪をなで上げる。
エアロス、Drクレハの言葉を拾って、トナカイに届けろ。
あの高圧的な笑い方をして、エアロスは飛んでいく。
風に距離も空間も関係ないから、瞬く間って奴だ。
ドォン、ドォン、ドォン!!
砲撃の音。
僕は目をあけた。
そりは止まっていた。
「すっげぇ…!」
「あぁ」
「きれい…!!」
トナカイは、チョッパーは見ているんだろうか?
僕は彼の背中を見つめた。
「う、う、…うぅ…っ」
嗚咽。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!!」
僕は見上げる。
冬島に、サクラが咲いていた。
偉大な医者の想いは伝わった。
…もう一人の医者の、彼女の言葉を、ちゃんと届けてくれ。エアロス。
びくり、と大きくトナカイの身体が震えた。
風が、エアロスが僕達にまでその言葉を伝えてくる。
「これって…」
「さっきの、風か?!」
さぁ、行っておいで。
バカ、息子。
「ドクター…!! ドクトリーヌゥ!!!!」
いつまでもトニートニー・チョッパーの、その声は響いていた。
再UP中