(2)
「飯〜〜〜〜〜!!!!!」
「くぉら!!」
「ぎゃーーー、あいつ、までつれて行きやがった〜!!」
「うぁーー、〜〜〜〜!!!」
みんなの声がどんどん遠くなる。
気がついたら僕の腕を取っていたルフィの手は、そのまま僕の身体を宙に浮かばせるぐらいのスピードで走り出した。
「めぇしぃぃ!!!」
ぐぅ、と僕のお腹もなる。
確かにお腹すいたけれど、空腹のときにいきなり肉類食べていいんだろうか?
まあ、きっとルフィは食べるんだろうけれど。
砂埃を上げながら走るルフィはゴムの身体を使って僕を空に向かって放った。
なにするんだ? と思ったら下で背中でキャッチして背負ってくれる。
「しししししっ、軽いなぁ、!! しっかり飯食おうなぁ!!」
「…」
ご飯を食べるのはいいのだけれど、ルフィはお金持ってるのかなぁ。
僕はそう思いながら、この国を見つめる。
乾いた空気に、ときおり顔につく風に混じった砂。
ビビ王女の国。
砂漠の国。
目を閉じる。
と名乗って女の子していたあの時代に『ワンピース』はよく読んでいたし、見ていたのに、今のである僕の中にある記憶は血なまぐさいものばかりに上書きされてしまっていて、思い出すのはいつも終わったり経験してからだというのが、なんとも情けない。
断片的にしか覚えていないから中途半端だ。
中途半端。
なかなかどうして、今の僕の精神状態にはお似合いの言葉だなぁ。
そう考えていたらいくつかのマガタマたちが笑うのを感じる。
バカにしたようなのや苦笑いのものとかだ。
「? どうした? 腹すきすぎて痛ぇのか?」
ルフィの声に僕は首を横に振って、彼の頭を抱きかかえるようにしがみつく。
とたんになぜか「しししし」と嬉しそうな声を上げるルフィ。
「いよぉおし、スピードアーーープ!!」
ずどどどどど。
そんな音が似合いそうな勢いでルフィは走り出した。
「なんだろうなぁ、変な匂いが邪魔してんだよなぁ」
そんな言葉に彼に視線を落とす。
なんの?
レストランの匂いかな?
というか、匂いってチョッパー並みに鼻が利くのかな? 麦わらの海賊王は。
あ、たぶんあれはレストラン。
僕はその方向にぐいっと僕はルフィの首を動かしてみた。
「お〜〜〜!!! あれは飯屋!!! でかしたぞ、!!!!」
うん、どうでもいいから少し静かにしたほうがいいんじゃないかな…。
ナミさんが確か「本能で行動するな」とか言ってたような気が…。
「やっほ〜〜〜〜〜〜〜う!!!!」
ゴムの腕が伸びた。
あ、もう遅い。
「ゴムゴムのぉ!!」
頭を抱えるんじゃなくて、とっさに背中にしがみついて縮こまる。
「ロケットォーーー!!!!」
「ぐあぁああ!!!」
僕の頭の一部とルフィの頭が誰かの背中をぶち当ててしまう。
「うはーーーっ! 飯屋だ、腹へった〜〜!。、着いたぞー?」
僕は頭をさすりながらルフィの背中から降りると、ちょうどあいていたカウンターに座る彼の隣の席に着いた。
少し痛いけれど我慢できないわけじゃない。
「おっさん、メシメシメシ!!!」
ナイフとフォークをもって催促するルフィの隣で、僕はコックさんらしい人を見上げる。
「…あぁ、でも君達…逃げたほうが…」
僕もきっとその方がいいと思いますが、今はご飯にしてあげてください。
僕はそう思いながら目を向ける。
きっと僕の視線で気持ちを知ってくれるルフィやゾロではないから、僕の想いは伝わらないだろうけれど、問答無用で催促しているルフィの様子と、無言(で無表情)な僕の様子から察してくれるだろう。
ぐぅ。
僕は鳴った自分のお腹をさする。
すみません、僕にも何か食べ物をください。
僕もルフィのまねをしてナイフとフォークを手に持った。
あきらめたのか、すぐにその人はたくさんの料理を出してくれるけれど、あっという間にルフィが食べてしまう。
「…?」
「お前、早く食えよ。いらないかと思って全部くっちまっただろう」
…あぁ、うん。
判った。
久々の食事だから忘れてた。
ルフィの横で食べるときは早めに口の中に入れること。
これが鉄則。
次々におかれる食事に、僕は僕なりに早めに口の中に食べ物を運んで水分も補給した。
「うっめぇええええええ!!! なんてうめぇ飯屋なんだここは〜〜〜!!! お前もそう思うだろ? 」
「あ、ありがとう、君…でも」
果物に手をつけて、ルフィがご飯を食べ終わるのを待つ。
「もほぉ、ひーにょか?(もお、いいのか?)」の言葉に頷いて、その食べっぷりを見つめる。
僕が見ているとルフィはおいしそうに、そして嬉しそうにご飯を口いっぱいに食べ始めた。
…ハムスターに見えるな…。
「おい、ル…!!」
ん?
ゴゥン!!
「麦わらァア!!!!」
「ウゲ」
誰かが壊れた壁から出てきた。
制服からして海軍。
麦わら、と言ってるから、もしかしてルフィの顔見知りの人かな?
それでもルフィはただ目だけをその人に向けて、食べるのをやめない。
「やっぱり来たか…この国に…。ん?」
その人の目が僕に向かう。
「…お前…、そうか。麦わらがお前を治すとかほざいたんだな…? 海賊風情が医者の真似事か」
…?
何言ってるんだろう、この人…。
ふいにローグタウンで分かれた孤児院の子供達と、あの町の大人たちのことを思い出した。
そんなことを、確かサンジが子供達に言っていたけど…どうしてこの人がそれ、知ってるんだ?
「って、食うのをやめろ!!!」
ルフィはまだ食べていた。
…。
いいのかな?
「ばもぼいもめうい!(あのときのケムリ!)なんべぱんべもばぴぴ!!(なんでこんなところに!!)」
…食べたものを思わず吹き飛ばしながら言ったせいで、真正面に来ていたその海軍の人にそれらがかかる。
ごめんなさい。
なんとなくあやまったほうがいいと思ったので、僕はその人に対して頭を下げていると。
「野郎…!」
「もーーああ〜〜〜おむ〜〜〜!!!(どうもごちそうさまでした)」
ルフィは両手で出されていた食事をかき集めて口の中に押し込めると、僕の腕をまた勝手に取って。
いきなり店を出て走り出した。
「待てぇ!!!」
ルフィ?
「もーまーもん!! めんう〜〜〜〜む!!(まいったな。あいつゴムゴムの技なんもきかねぇんだよな)」
へぇ、そんな人がいるのか。
「ん〜〜〜〜みぃ、ゴクン…ぽう!!(とりあえず逃げるしかねぇや)」
じゃあ、あの海軍はルフィよりも強い人間なのか?
僕は走りながら(と、いうよりも全力ダッシュのルフィに引きづられている)、後ろを振り向く。
「たしぎぃ!!」
その人が前にいた誰かの名前を呼んだ。
「!」
「麦わらっ!? 仕留めますっ!!」
ルフィがとりあえず頬に収めた食べ物をほとんどお腹の中に入れたのか、顔が小さくなって僕の手を引っ張りあげると抱き上げて…いわゆるお姫抱っこってやつだ…前にいた剣士らしいその人の攻撃をかわす。
片手が近くの建物に伸びたかと思うと、ゴムの反動でそのまま一気に駆け上がった。
「チッ!!」
後ろから追いかけてきた海軍の舌打ち。
ちらりと後ろを覗き込む。
もくもくもく。
たとえにするとそんな感じだ。
白い煙になったと思うと、すぐそこまでやって来ていた。
…あぁ、思い出した!
そういえば、いたのを思い出した。
悪魔の実の能力者で、確か…スモーカー大佐。
「ホワイトスネーク!!」
白い腕が煙になって、そのまま僕らを追いすがっていく。
「うぉおおおおお!!!」
「ペ ル ソ ナ」
僕の口がそう動いてサタンが飛び出す。
街中だけれど一瞬だし、何より海軍の人はこの国の人間じゃない。
だからペルソナを見せても、後々、ビビ王女の迷惑にはならない。
「なにぃ!!??」
「マハラギダイン」
炎がその煙を焼いてスモーカー大佐との間に壁を作る。
一応、加減ができたはずだ。
「ナイス! !!」
ルフィは僕を抱えたまま、足を止めずに町の中を走り始めた。
「待て〜〜!!!」
「逃がすな〜〜〜!!」
「わわわわ、いっぱい来た…!!」
それでも僕を放そうとしないのはなんでだろう?
僕にも走らせればいいのに。
そう思って僕がルフィを見つめると。
「おまえ、歩くのも、走るのも、おせぇだろ?! いーんだよ、まかせとけ!」
…。
ルフィがそういうなら、いいか。
あ。
「ああああああああああああ!!!!」
「いたぞ〜〜〜〜!!」
走り回る海賊王の腕の中で、僕はうっすらこう思っていた。
…あのレストランに、お金支払ってないよ。
再UP