(1)


アラバスタまで行く航路であったことといえば、別にそれほどたいした事件は起きなかった。
僕が船の帆をたたんだりするのに出したペルソナ(サタン)にチョッパーが腰を抜かしたり、それを見てウソップたちが笑ったりしていたけれどこの場合、おかしいのはウソップたちのほうだと思うのは僕の間違いなんだろうか?
今日も船はビビ王女のアラバスタに向かって進んでいる。
あぁ、そういえばルフィたちがつまみ食いしている現場を見てしまってウソップに「サンジには内緒だ」と、唇に指を当てて「しー」というのをされたので、サンジに「誰か知らないか?」と聞かれたのでそれと同じ事をすると、傍でビビ王女とナミさんが笑っていたっけ。
サンジには「可愛いねぇ」と言われてしまった。
僕にそんな気…可愛くみせるつもりはなかったんだけれど。
あぁ、その後ルフィとウソップと、チョッパーとカルーは殴られていた。
…ま、嘘ついてもこの人たちはすぐばれる。
彼女達と…いや、この麦わら海賊団たちと一緒に過ごしていると、ヒメと話していたあのときの頃を思い出す。
なんだかそれは胸が少し苦しくなるけれど、暖かくて心地よくて。

なんだろう? 僕のこの感情は?
嬉しいんだろうか? 哀しいんだろうか? そのあたりがはっきりしない。

時々、銀時計…ヒメの宝物が入ったそれ…を取り出して、彼女との過去を思い返して比較しようとするのだけれど…見ているとルフィたちがすぐに僕を釣りに誘ってくれたり、ゾロが掃除を手伝えと言ってきたりと、まあ用があって上手いこといかないや。

「お、なんだありゃ」

誰かのそんな声で僕は海面を見た。
海から湯気が出ている場所を見て、ビビ王女が慌ててナミさんを連れて外に出てくる。
ホットスポット。
ここにあと何万年後かに新しい大陸が出来るという言葉に感心する人間たちをよそにルフィが一言言った。

「何万年って俺、生きてられるかナァ」
「いや、そこは死んどけよ。人として」

…僕はどうなんだろう?
人間は寿命にしばられるけれど。
…。
あとでピクシーたちに聞いてみよう。

「なんか釣れたか?」
「お、サンジ。腹へった」

ぐぅ、と小さく僕のお腹もなって、それを聞いたルフィたちもまた「腹が減った」と騒ぎ出したせいもあってサンジが倉庫の中に入っていく。
……そういえば…あれ以来、またストックの皆とのリンクはまた切れてしまった。
呼び出そうとしてもうんともすんとも言わない。
ケルベロスはマガツヒをかなり摂取しちゃったからしょうがないとしても…。
って彼らの回復とかはどうなってんだろう。それ考えてなかった。
マニアクス時代、つまりこの世界に落とされる前はみたいときに目の前にウインドウのようなものが現れてステータスのチェックができていたんだけど、この世界ではそうもいかないらしい。
…今まで必要なかったから使わなかったんで、気にしなかったけれど。

「うわっ!!」

そう思っていたらまともに煙が口の中に入った。
けほけほと咳き込んでいた、そのときだ。

「人間か?」
「さぁ?」

へ? 見たらへんな人が、釣り餌代わりにぶら下げられていたカルーにしがみついていた。
…?
どっかで見たことがある、ような。

「あれ〜!!! わーっ」

ぼちゃん、と海に落ちた。

「あちしったら、かなづちなのよぉう!」

ないような?
すぐに皆がその人を助けてあげた。

「いや〜、本当にスワン、スワン」

ひょろ長い身体のバレリーナ?の背中にいる二羽の白鳥の頭が気になる…。
あれ、なんでできてるんだろう。
助けたその男の人は「あったかいスープいただけるかしら?」と言って皆にしかられていた。

「あら? なぁに? あちしに御用?」

僕は正座して座ってる彼に近寄る。
僕の金色の瞳に少しびっくりしてその人が動きを止めた。

「なんだ、。なんか気になるのか?」

僕はそっと手を伸ばして背中の白鳥の頭にふれた。
その男に真正面から抱きつくような格好になってしまうのは仕方がない。
だって気になるんだ、この頭。
あ、硬いんだな。
少しなでてみると何を興奮したのかそいつは、こうがばっと僕の身体を抱きしめてきた。

「ぬぅわ〜んてかわゆいのかしら〜〜〜〜!! 食べてもい〜い〜?」
「「「「「駄目に決まってんだろ!!!」」」」」

皆、仲いいな。
僕はその男の人に頬すりさせられた。

「ぷにぷにほっぺなのねぇ」
「ぎゃあああ!!!! 離れろ! オカマ!!」

ウソップが僕と彼を引き離した。

「まーったく、知らない大人に近づくんじゃありません」
「そうだぞ、

…え、…いや、なんで僕ウソップとチョッパーにそんな基本的なこと叱られなきゃいけないんだ?
ただ僕は背中の白鳥が気になっただけ…で、って近づいたか、自分から。

「にしても、お前かなづちなんだな」

僕が小首を傾げている間に、ルフィとそいつの話は進んでいた。
悪魔の実を食べたという男が、余興代わりに能力を見せてくれると言い出して、おもいっきりルフィを殴ったのだ。

「何を!!」
「待って、待って、待って〜〜。余興だって言ったじゃないのよぅ」

そこにはさっきの男の服を着たルフィがいた。

「びびった、びびった、びびった〜?!」

マネマネの実を食べたというその男は、次々にみんなの頬を右手でなでていく。
声も体つきもまったく同じだ。

「すっげぇ!!!!!」

僕の姿にもなったけれど、声は出なくて、すぐに元に戻って僕をまた抱きしめて「強く生きるのよぅ!!」と言ってくれた。
ひげがちょっとじょりじょりするなぁ。

あ。

…思い出した。
この男、バロックワークスのMr2、ボン・クレーだ。

「いつまで、抱きしめてんだ!!!」

ゾロが今度は引き離して「アホがうつる、こっち来い!」と僕の手を引っ張った。
見せろ見せろ、というウソップたちにのりのりでメモリー機能まで教えてくれるボン・クレーを、僕はゾロと一緒に見ていた。
にしても悪魔の実って…かなづちと引き換えだけれど、確かに異能を人間に与える…一種のマガタマみたいなものなんだろうか?
そうこうしているうちにルフィたちと踊りだしたけれど、すぐに迎えの船が来たみたいだ。

「もうお別れの時間…残念ね」
「「「えぇええええ!!!」」」
「いかないでくれよ〜」
「悲しむんじゃないわよぉう! 旅に別れはつきもの…でも、これだけは忘れないで」

振り向きながら、親指でぴん、と涙をふき取る。

「友情って奴は、付き合った時間とは関係ナッシング…!」

泣かないで〜〜といいながら船に飛び移るその運動能力はさすがだ。
とたんに離れていくその船からこんな声が聞こえてきた。

「さぁ! 行くわよ!! お前達!!!」
「は! Mr2、ボン・クレー様!!!」

…。

…。

「なにぃ!!! Mr2!!!!???」






あぁ、そうか。
これがあの仲間の印をつくるきっかけだったな。
僕はそう思いながら、あのボン・クレーが去っていった船が行ってしまった方向を見つめた。
あの白鳥って、…えーと、取り外しができるって思い出したんだけれど、いつどこでだっけ?
皆が慌てながらも、それでもゾロに「あいつに今会えて、ラッキーだったと思うべきだ。対策が打てるだろう」という言葉で落ち着くまで、僕は船を見送っていた。



そう。

あいつにあったその後、すぐにアラバスタに船は到着するのを思い出したから。





ヒメ。

銀時計に触れる。
砂漠の王国につくよ。

世界をまた一緒に見よう。




再UP

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