(3)
「へぇ、金色の瞳なんて人間では初めてだな」
「あとはなんで見たんだ?」
「蜥蜴とか蛇とか爬虫類系だな」
「蜥蜴とをおんなじにすんな!」
「違いねぇ。そりゃ、こいつに失礼だ。…なんていうか、神秘的っていうか…あぁ、そうだ満月に似てるナァ、この色は」
にっ、と笑うのは、テンガロンハットの男。
「俺はエース、よろしくな。おちびさん」
よろしく、とだけ僕は口を動かした。
前もって僕の手をいまだに繋いでいるルフィが「こいつ、今は話せないんだ」と言ってくれているからそのことに別に気にせず、僕の頭を撫でてくれて歩き出す。
「あいつら、船に戻ったのかも知れねぇなぁ」
「船はどの港にとめたんだ?」
「それがぜんぜん思い出せねぇんだな!」
自信満々にいうルフィに、エースはちょっとあきれたみたいだ。
「おまえなぁ…海賊船の船長なら、自分の船をどこに止めてるかぐらい覚えとくもんだ。普通」
…周囲に人の気配が増して、僕は手をつながれたまま歩きながら、そっと目だけで辺りをうかがう。
……ばればれ、だなぁ。
見るからに賞金稼ぎか海賊かっていう人たちが僕達を包囲し始めてる。
二人とも気がついてるんだか、いないのだか話はまだ続けていた。
「ところでお前の仲間はこいつ…のほかはどんな奴らなんだ?」
「世界一の剣豪になりてぇ剣士。いつも腹巻してんだ。航海士は地図とみかんとお金が好きだ。それからめっちゃくちゃ料理のうめえコックに…あ、そうだ。うそつきも乗ってるぞ。それから、トナカイだ」
まるで自慢するように…いや、きっとルフィにとって自分の仲間は自慢の種なんだろう…隣を歩く男にそういうと「そりゃまた、ずいぶんバラエティにこだわったなぁ」と笑っている。
「今は王女とカルガモも今は仲間だ。なぁ? 」
僕はそれに頷きかけて、とめた。
いや、仲間っていう言葉に僕はひっかかりを覚えるから。
たとえ、左腕にこれをしていても。
「あ、素直じゃねぇなぁ。は〜」
駄目だぞ、とかいいながらルフィが僕とつないでいる側の手を動かす。
どうしてこうなったかと言えば…。
正直、ルフィがなし崩しに合流した皆とは違う道を走ってしまい…道に迷ってしまったのが原因だ。
一応、僕は「道が違う」と何度も訴えたけれど、でもルフィはエースとスモーカー大佐と戦ってできた火柱のほうに注意が行っていて気がつかなかった。
「な〜んで皆いねぇんだ」なんて言われたときには「どうしよう、この場で別れた方がいいかな、この人」とか思ったよ。
その瞬間、抱きかかえられたけれど。
「ダメダ! 俺は許さねぇぞ! 俺から離れんな!!」
…なんでこの人は僕の考えること判るんだろうか。
小さくため息をつく僕の中ではマガタマたちは、そんな僕の状況を面白がって笑ってた。
そのうち、エースと呼ばれたこの男が合流したんだ。
いきなり腕相撲しはじめた二人の様子は…二人とも、嬉しそう? だった、と思う。
「皆、えれ〜、面白ぇぞ!!」
「ま、お前が一番面白いんじゃねぇかと、俺は思うけどな。…しかし、たった数人の海賊団とは、お前らしい」
「あと、音楽家が欲しいな!」
…音楽家?
そのときだった。
「止まれ」
ようやく周囲を取り囲み終わった男の人たちが僕らの前に現れた。
「火拳のエース、お前の悪運もここで終わりだ!!」
「ん? おい、こいつ、麦わらのルフィじゃねえのか?」
「そう言われれば…」
「3000万ベリーの賞金首!!!」
さて、どうしよう?
「ん?」
「つくづくラッキーだぜ!!火拳のエースに麦わらのルフィ! お前たち二人の首を取りゃ俺達の昇格は三段跳びだ!!」
昇格?
ただの賞金稼ぎの一団じゃないのか?
僕が首を傾げていると、ルフィはまるでその人たちが見えていないかのようにエースと話しながら僕の手を引いてその男の人たちを素通りした。
「とにかく船を捜そう。海岸に出るか?」
「だな」
…この人たちってマイペースってやつなのかな。
まあ、いいけど。
「ふっざけやがってーーーー!!! やっちまえ!!!!!」
「おぅ!!」
無駄に団結力がある人たちだなぁ。
「この野郎!」とか言いながら、男達は手に持った武器の矛先を僕らに向けて襲い掛かってきた。
僕からルフィの手を放して、僕の身柄を人質にしようとしてくる連中をあしらう。
「ほぉう! やるじゃねぇか! !」
エースがそういいながらほめてくれるけれど、手を放したルフィはそうでもない。
「あ〜〜〜!! こら、お前らが来るから、が!」
よけて、何人か倒していくとルフィが取り囲まれたけれど、あのゴムの身体を使ってすぐ自由になる。
建物間に洗濯物か何かをつるすためのロープを使って宙に浮かんでいる。
幾人かが銃口を向けた。
…避けないと。
いくつかの銃声が響き渡るけれど、弾を受けたはずのルフィは怒って全部をはじき返した。
「びっくりするだろうが〜〜このやろう〜〜〜〜!!!!」
…普通はびっくりだけじゃすまなく、人間は死んでしまうんじゃないかな。
無造作に飛んできた弾のいくつかを避けて、エースの傍にいくと彼が笑う。
「お前のとこの船長は、相変わらずだ」
相変わらずなのが嬉しいんだろう。
よっという掛け声とともに地面に戻ってきたルフィにエースが口を開いた。
「おい、ルフィ。お前考えて跳ね返さないとに当たってたぞ、今の」
「え? そうか? そりゃ悪い。」
いや…別にいいけれど。
「ってぇぇえええええい!!!」
集団の代表格らしい体格の男の人がそんな僕達に刀を向けて走ってくる。
「てぇい!!」
ぶん! と大きく振られた刀を避けてルフィが後退すると、エースが軽い動作でその刀を指先だけで止めた。
「ゴムゴムの〜〜〜〜〜!!!!!」
僕の目はエースの指先に向いていた。
ボウ!という音を出しながら指先が燃えて刀が真っ赤に燃え始める。
「あちぃ!!!」
へぇ、これがエースの悪魔の実の能力。
あまりの熱さに耐えかねて男が刀から手を放すと同時に。
「バズーカ〜〜〜〜〜!!!!」
ルフィの両手がその人の腹に決まっていた。
吹き飛んでいく巨体を見ていると「」と名前を呼ばれる。
何事もなかったかのように手を差し出されて、ここで拒んだら後が面倒なのでそれを手に取るとルフィが笑いつつ歩き出した。
もちろん、エースもだ。
「ひ、ひるむなぁ!!!」
「ナンバーエージェントの椅子がかかってるんだ〜〜〜〜〜!!!」
ナンバーエージェント。
賞金稼ぎ、とかもそうだけどもしかしたらバロックワークスか。
「追え〜〜〜!!」
そんな声を聞きながら僕達は海が見える場所まで来ていた。
船はゆっくりとした動きで目の前の海岸を航行中、のようだ。
「見つけた! お〜い!!」
ルフィが勢いよく手を振る。
「いたぞ! 見つけた!!」
「お前達もしつこいなぁ」
「おーーい、みんなーーー!! おーーい」
ルフィはそう言って手を振ってから僕の身体を小脇に抱えるように抱き上げて。
「ゴムゴムの〜〜〜!!」
…うん、君の移動手段はそれだよね、やっぱり。
でもいいのかなぁ、エースを放っておいて。
「た〜だいま〜〜〜〜〜!!!」
サンジとチョッパーに激突した。
少し、いや、だいぶ、痛い。
「にゃはっはっはっは、悪いなぁ。サンジ。チョッパー」
「てめぇ! ぜんぜん反省しってこと知らねぇのか?! おろすぞ、こらぁ!!」
「うぅ…あ、。大丈夫か?!」
うん、僕は平気だ。
痛いけれど。
「俺がに怪我させるわけ、ねーだろ。チョッパー」
なんでそう自信満々なんだルフィ。
確かに怪我まではいかなかったけれど。
「そういう問題じゃないだろ!」
「そうよ、船長として自覚しなさい!」
むぅう、とルフィは顔をしかめて「ごめ〜ん」とあやまった。
その後「あ、エース」とようやくその存在を思い出したかのように言い出すルフィ。
「兄貴と一緒だったのか?」
「おい、いいのか? おいてきちまって」
「ま〜、大丈夫か。エースは強ぇからよ」
「強いのか、あいつ」
「あぁ、昔はメラメラの実なんか食ってなかったけどな。それでも俺は勝負して一回も勝ったことなかった。とにかく強いんだ、エースは!!」
「あんたが一度も?! 生身の人間に?!」
「やっぱ怪物の兄貴は大怪物か」
「そうさ、負け負けだった。俺なんか。だっははははは…」
そうか、ルフィはエースよりも弱いのか。
笑っているルフィと僕の目が合った。
一瞬だけルフィの笑いが止まる。
「でも今やったら俺が勝つね」
僕の目を見ながらルフィはそう言った。
まるで僕に言い聞かせるように。
そして幾分か、まじめな顔で。
そしてまた笑い出すルフィの声に、もう一つの声がかぶさった。
「お前が! 誰に勝てるって?!」
火拳のエースが僕らと合流したのは、その直後のこと。
そしてユバまで彼は僕らと行動をともにすることになる。
再UP