(3)


「ウソップ!!」
「任せろ!!」

ゾロが僕の身体をウソップに押し付ける。
ずきん、と傷が痛むが顔には出ない。

「急ごう! 時間がねぇ!」
「えぇ、奴らがいったん行こうとした通路がきっとアルバーナ方面よ」
「…でもあの通路にはまだバナナワニがたくさん…!! くんだって怪我をしてるし…!!」

ルフィとゾロが檻の外に出ると、彼らは今までビビを苦しめてきたそれらを一瞬にして叩きのめした。

「向こうは心配ないみたい」
「いらぁ!! もういねえのかぁ!!…くそぉ水につかってちゃ本気でねぇ!!」
「…私があれ一匹にどれほど…」
「いや、おかしいのはあいつらのほうだから…気にすんな!!」

涙ぐむビビにウソップがそう慰めているのが聞こえた。
僕は目を開ける。

、くん」

ビビの声に彼女の顔を見つめる。

「さっきはありがとう、 くん」

瞬きをして、そしてこくりと頷く。

「怪我は痛むと思うけど、ペルソナで治せるまで…あと何分ぐらいかかるの?」

ナミさんがそう聞いてきた、その時だった。

ぴしっ!!

「うわぁ!! 壁が壊れたァ!!」
「アホォ!! やりすぎだ!!」
「通路まで壊れた!!」
「脱出だ!! 脱出するぞ!!」

ごぼりと空気の泡が見える。
水はかなりの勢いで僕らがいる方向に流れ込んだ。
何かゾロとルフィが言い合いをしているのを目の端で捕らえながら、僕は岩に頭をぶつけたウソップの傍で唇を動かした。

ペ ル ソ ナ

次の瞬間、サタンが出てくる。
その腕がウソップと僕を抱えて、泳ぎだした。
泳いでいる間に、スキルが発動してくれて、僕の体の傷がきちんとふさがっていくのを感じ取る。
傷はふさがっても、まだ血が足りない。
…。
水面に出ると同時にペルソナを消した。
ビビとナミさんがウソップを引き上げてくれる。

「ウソップさん、しっかり!!」
「まったく、何やってんのあんた!? しっかり泳ぎなさいよ!!  、大丈夫?!」

僕は深呼吸してから頷いた。
服がびしょぬれで重い。
見ればルフィはサンジが、スモーカーはゾロが助けていた。
…そうか、悪魔の実の能力者は泳げないんだった。

「うわっ!! スモーカー! おいおいゾロ、てめぇ何敵連れてきてんだよ!!」
「うるせぇ、不本意だよ。…どうせくたばり損ないだ」

そんなサンジとゾロの会話を聞きながら、僕は着ていた服をビビと一緒にしぼる。
握力は戻ってる。
引きつるような痛みが多少あるけれど、許容範囲。
動ける。
僕は腰につけていたウソップが作ってくれた武器を確認する。
うん、これさえあればいい。
サンジがナミさんに香水をつけるように言っている間に僕はウソップとルフィの身体を揺り動かした。

「ん……?」

気がついた。
そう思ったとたん、二人は立ち上がった。

「っしゃーーー!! 野郎ども『アルバーナ』へ一目散だ!!!」
「クロコダイルはどこだーーーーーっ!!!!」
「あ、気がついた」

僕は見つめてきたスモーカーの目を見返す。

「あれだけ血を流しておいて、立ち上がるか。…あの化け物はなんだ」

悪いけれど、説明してる暇はないんだ。
僕はそう唇を動かす。

「うおっ、けむり!!」

僕とスモーカーの間にルフィが立ってファイティングポーズをとった。
…戦ってる暇、ないだろ。ルフィ。
しばらくにらみ合っていたスモーカーは、根負けしたように目を閉じた。

「行け」
「ん?」
「…だが今回だけだぜ…。俺がてめぇらを見逃すのはな」
「!」
「…次にあったら、命はないものと思え。『麦わらのルフィ』」

スモーカーの目が僕にまたくる。

「そのとき、お前のことも聞く。」
「あそこだ!! 麦わらの一味だぁ!!!」

海軍の応援の声。
ウソップたちが背を向けて走り出す。
僕の手をゾロがとって、引き上げると走りながらおんぶしてくれた。

「行くぞ!!」

うん。

「おい、ルフィ。急げ、何してる」
「あぁ」

背後でスモーカーと短くやり取りをしてから、ルフィもすぐに僕らに追いついた。
水を吸い込んだ服は重い。

「おい、もしかしてこのまま走ってアルバーナへ行くなんてこと、ねぇよな!!」
「そうだ、マツゲ!! マツゲはどこに行ったの?」
「この町に馬小屋とかあったぞ、馬もらおう!!」
「でも町には海軍が」
「ご安心あれ…。前をみな!!」
「あ、いたぞ!! おーい、みんな!!!!」

チョッパーの声に前を向くと、本当に大きなカニの上にマツゲとチョッパーの姿があった。

「カニ!!?」
「うまそーーー!!!」

ルフィ…食べる気?

「これは…ヒッコシクラブ!」
マツゲの友達なんだというそのカニを見ると、少し怯えた気配をした。
! 大丈夫だ!! お前のこともちゃんと話した!!」

チョッパーが得意げに言ってくれる。
まあ、悪魔だからってルフィみたいにすぐに食べることを考えるわけじゃないから。
宜しく。
そう、僕は思いながら、ゾロの背中にいたまま頭を下げる。
「乗ってくれよ」というチョッパーの言葉に僕達は急いでカニの背中に乗り出した。
チョッパーによると、このカニはマツゲの友達。
ビビによるとこのカニはいつも砂の中にもぐっている幻のカニなんだそうだ。
マツゲって交友関係、広いんだだ。
僕が目を向けると駱駝のマツゲは得意げに笑った。

「よーーーし!! 行くぞーーー!!!」


チョッパーの声と一緒に、ゾロの背中からおろしてもらう。

僕は気配に気がついてビビの身体にしがみついた。

!」
「チョッパー!! 止めろ!!!」

ビビの身体を、鍵爪が捕らえている!!

「ビビ!! !! あいつだ!!」

ルフィが飛び出して、僕ごとビビの身体をその爪からはずしてくれた。
…けど!!

「おい!! ルフィ!!」
「あの、バカ」
「ルフィさん!!」

ルフィ?!!

「お前ら、先に行け!! おれ一人でいい!!!」

人影が、見える。
クロコダイルと、そのパートナー。
ルフィが飛んだまま、僕とゾロを見た気がした。

「ちゃんと送り届けろよ!! ビビを、宮殿(うち)までちゃんと!!」
「おい、ルフィ!! 敵は二人いるんだぞ!!」
「ルフィ!!」

笑った。

ルフィは、笑っていた。

「ゾロ!! 頼む!!」
「バカが」

ゾロの呟きが聞こえたかと思うと、彼は振り向いた。
もうルフィを見ない。

「このまま進め、チョッパー!!! アルバーナへ!!」
「わ、判った!!!」
「おい、ゾロ!! 置いていくのか!?」
「ルフィさん!!!」

飛び降りるかもしれない。
ビビを僕は止めた。

くんっ! ルフィさんが」

ルフィは、クロコダイルを抑える。
掴んだ肩に力を入れると目が合ったから、そう意識をこめて見つめて、こくり、と頷いてみると彼女は唇をかむ。

「大丈夫よ、ビビ」

ナミさんもビビを抑えてくれた。

「気の毒なのはあいつらの方!! 今までルフィに狙われて…無事でいられた奴なんて一人もいないんだから!!」
「いいか、ビビ。 も言ったように、クロコダイルは…あいつは抑える」

ゾロが座り込みながら、言った。

僕の声、というか意識が聞こえたのはゾロだけだというのに、お構いなしに続ける。

「反乱軍が走り出し始めた瞬間にこの国の制限時間は決まったんだ。
   国王軍と反乱軍がぶつかればこの国は、消える!! それを止められる唯一の希望がお前なら、何が何でも生き延びろ…!!!
 この先ここにいる俺達の中の誰がどうなってもだ…!!!」
「そんな…」

後ろを振り向く。
ルフィが砂漠に落ちていた。

「ビビちゃん。こいつは君が仕掛けた戦いだぞ。
   数年前にこの国を飛び出して、正体の知れねぇこの組織に君が戦いを挑んだんだ。…ただし、もう一人で戦ってるなんて思うな」
「!!!」

ウソップが励まそうと震える声で言うのを聞きながら、ビビは、拳を固めた。

「ルフィさん!!!」

ビビと一緒にルフィを見る。

「アルバーナで!!! 待ってるから!!!」
「オォォ!!!!」


再UP

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