(4)


ビビ王女は国を背負っている。
それは一人の女の子が背負うには、あまりにも重過ぎるものだと思うから。
だから手を差し出すんだ。
こんな悪魔で壊れた心の僕だけど、けれど少しぐらいはもてるんじゃないかな? と思ったから。
だからけして、この感情は仲間だからとかそういうのじゃないはずなんだ。
お前、いい加減に認めろよ。
マガタマたちのあきれた声に、僕は無視して歩いていた。


エルマルの町にメリーを泊めて、半日かけて歩かなくてはいけないユバ。
僕達は似たようなマントをかぶって歩くことにした。
肌を露出していたら火傷してしまうからだ。
船から下りると、クンフージュゴンとかいう生き物が出てきて、ウソップが即効負けていた。
僕が近づくと一瞬だけクンフージュゴン達はひるむ。
野生の動物…だよね?…だからか、彼らもまたチョッパーが感じたように僕が動物でも人間でもない気配を漂わせているのを感じ取ったんだろう。
でも武闘派らしい彼らはすぐに僕に対して構えのポーズをとった。
…戦うの?
一応、ウソップが僕用の武器を作ってくれたから、デッキブラシがなくても戦えるようにはなっているけれど。

「だめよ、くん!! 戦っては!!」
「お前、に何すんだ!!」

ビビ王女の制止の言葉の前に、ルフィが手を出して勝ってしまっていた…。

「勝ってもだめなの! 勝負に負けたら弟子入りするのがクンフージュゴンの掟なの!!」
「クォッス」

かめみたいな甲羅を持つジュゴンはルフィに頭を下げた。

「クオ!!」
「違う、構えはこうだ!!」

いつの間に何匹と戦ったんだ、ルフィ。

「弟子が増えてるわよ!?」
「なにやってんだ、あいつは…」

さぁ?

「そいつほっといて先に行こうか、

え?

エースはそういって手を差し出してきた。
つなげってことなんだろうか?
首をかしげるとにっと笑われる。

「俺ぁ、海賊してるからよ。お前ぐらいな年頃の子供とは付き合いがねぇから、一緒に歩いてみてぇのさ」

…。
…まぁ、いいけど。
僕がその手を取ろうと伸ばしたそのときだった。

「ゴムゴムの〜〜〜〜駄目だ!」

ドン!!

ぶはっ。

「あぁ!! 〜〜!!」
「大丈夫か!」
「何やってんのよ、ルフィ!!」
「だってがエースと手ぇつなごうとするから」
「手ぐらい、つながせたっていーだろうが!」

僕は頭から砂に突っ込む羽目になった…。
傍にいたエースの小さな笑い声が聞こえる。




熱砂の砂漠を歩く。
歩く。
僕の手はエースの手につながれていて一番最後のほうを歩いていた。
一番前にはルフィが「暑い〜」「あ〜」を連呼しながら歩いてる。
で、ときどき振り向いてエースと僕を見て唸ってるのだ。
あの後、ビビ王女の言葉が僕の中の、いや、僕達の中の何かにしみこんだ。
ダンスパウダー。
雨を呼ぶ粉を使った、クロコダイルが仕掛けたことをビビ王女は教えてくれた。

「…全てはクロコダイルの仕組んだ罠…! 彼の思惑通り、反乱は起きた!! 町が枯れ、人が飢えてその怒りを背負った反乱軍が無実の『国』と戦い、殺しあう…!!!」

ビビ王女は戦っていた。
己の中の怒りと、悲しみと、そしてクロコダイルへの憎しみと。
国を思うから、人を思うから、土地を思うから。
一度吐き出されたそれは魂の慟哭をあげる。

…国の平和も、王家の信頼も、雨も…!! 町も、そして人の命までも奪ってこの国を狂わせた張本人が、クロコダイルなの!!

そう、その本人は、確か王下七武下海として海軍からも信頼を受けている。
それは覚えている。
あとは、なんだったかな。
片手が武器だった…っけ?

…なぜ、あいつにそんなことをする権利があるの!?

…確か、プルートとかいったかな…。
いや、なんか違う気がするけど、そんな名前のそれを手にするために国を犠牲にすることを彼は選択した。
いや、犠牲ことすら、確か考えていないはずだ。



「私は、あの男を許さない!!!!」



僕の手を握ってるエースの力が少し、こもる。
もしも彼に用事がなければ手伝ってくれていただろうけれど。
この人にもこの人の都合っていうものがある。

ドゴォンン!!

建物の一つが崩れ落ちる。

「ったく、ガキだな。てめぇら」

今の自分達の中の感情を吐き出す術を暴力に変えて、ルフィ・ウソップ・サンジが建物を壊したんだ。

「さっさと先に進もう。ウズウズしてきた」

ルフィの言葉に、僕らは頷く。

、お前さんは、どう思った?」

エースの小さな声に僕は、声で答えない。
目を彼に向ける。
無表情で、無感情な僕から言葉を聞き出すのはいつもルフィとゾロの二人だけだ。
だから届くとも思わない。
僕は口を動かした。
読唇術でも彼が使えたのなら、ちゃんと伝わるだろう。

王女が、あんな泣き方をしているのがいやだ。

僕の口の動きをちゃんと読んだのか、エースはにっと笑う。

「そうか」

王女が背負うものは、一人では重過ぎる。

「そうか」

だから手を差し出すのは間違い?

「いや、間違いじゃねぇぜ。それが仲間って奴だ」

…仲間じゃない。

僕がそう口を動かすと、彼は黙って僕の手をつなぎなおして歩き出した。
目的地はユバ。
砂のオアシス、のはずなんだけれど。
どうだった、かな?

弁当食べようと騒ぐルフィの声を聞きながら、僕達は砂漠を歩く。



再UP

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