(5.5)
砂漠の夜は心底冷える。
「ルフィ、ちょいと聞いていいか」
「んぁ?」
俺と一緒にチョッパーを取り合って暖をとっていたルフィに声をかけたのは『火拳』のエース。
今回のたびに目的地が一緒だからと同行してくれている白ヒゲ海賊団の二番隊隊長はそう言いつつ目を上のほうに向けた。
岩場の中腹には毛布をすっぽりとかぶって夜の見張り番をかって出たがいる。
「あの子はいったいどういう子供だ?」
「はだ。本当の名前はまだ教えてもらってないけど」
本当の名前ってなんだよ! 初耳だぞ!!
「あぁ、そういやそんなことドラムで犬が言ってたな」
犬? 犬って…あぁ、あのしゃべるでかい獣、ケルベロスか?
「犬って?」
「さぁ、俺は知らねぇ」
「あ? そうなのか? いや、そうじゃなくてな、ルフィ」
ぱちぱちと火がはぜる。
こっちの声はたぶんには聞こえてねぇだろう。
「…あの子は、何をあきらめてる?」
俺は思わず動揺した。
「…諦めてる?」
チョッパーが繰り返した。
「あぁ」
テンガロンハットを抑えて、エースがさらに言葉を続けた。
「もしくは、何を己に言い聞かせている?」
「しらねぇ。けどどーせくだらねぇことだ。まーったくしょうがねぇなぁ、は。俺がいないと駄目駄目だな、うん」
からっとそう言ってるルフィに「くだらねぇって決め付けんな」と俺が裏手突込みを入れると、エースが目を細めた。
「あの子の、あの妙なもんだす能力が関係してんのかねぇ」
「? どういうことだ?」
サンジが聞いた。
「仲間って言葉に、反応をしめす」
…。
「いい反応じゃねぇなぁ」
「…あいつ、悪魔だから、って思ってんのかな? まだ」
チョッパーがぼそりと言って、ルフィの顔がいつもよりもまじめになる。
「そりゃまた、くだらねぇことだ」
ゾロが見上げる。
「悪魔の実の能力者か?」
「いや、本物の悪魔だ」
「はぁ?」
ルフィとエースがそう話しているのを聞きながら、俺はチョッパーから離れるとのとこに行って見ることにした。
「ウソップ?」
「…少し話してくるだけだ」
「俺も行く!」
ルフィが立ち上がるのを俺が手で制する。
「いや、お前が行くと話がどーも違う方向に行くから、俺一人でいいって」
「お前、の声がわかるのか」
ゾロがそう聞いてくる。
「判らなかったから、書いてもらうからいいさ」
「判るってなんだよ。読唇術、お前らできるのか?」
「いや、目ぇ見てりゃ判るだろ? なぁ?」
「あぁ」
「はっきり判るのはお前らぐらいなもんだっつうんだ。俺でも多少って感じなのに」
「すごいな〜皆は〜」
俺はそんな会話を背にしながら、岩場を登る。
「お、おい、なんかあったか?」
首を振る。
振り向きもしない背中に、なぜだか胸がざわつく。
「、星がいっぱいだな」
そう声をかける。
こくり、と首が縦に振られた。
「なあ、」
「…」
「…」
どう、言おうか…。
どう、聞こうか…。
俺は頭をかきむしって、そしてちらりとの左腕を見た。
俺と同じ包帯の、その下には仲間の印。
俺は自分のそれを見る。
「エースに、なんか言われたか?」
首が横に振られる。
「そっか」
なぁ、と俺は続けた。
「俺達は、お前の仲間じゃないのか」
こくり、と首が縦に振られた。
ショックだったけれど、それからしばらくして首が横に振られた。
…どういう意味だ?
しばらくしてからは左腕のあの仲間の印をなで始める。
えーと、もしかして本人も…。
「…判らないのか?」
首が縦に動く。
「おい、」
顔を見ると、いつもの無表情なあの顔が少し青白くうつむいているから、心底悩んでいるようにも見えた。
「…そんなに、考えてんのか」
こくり、と頷く。
仲間じゃない、と言ったがその後否定されて。
けど。
けど。
…あぁ、なんてーか、俺笑顔になっていくんですけど!!
だってよ、だって…ルフィにあれだけ「仲間じゃない」って言いきってた奴が。
迷ってくれている事実に嬉しさがこみあげてくる。
「ゆっくりでいいから、あんま悩むな? 俺たちは逃げやしねぇ。傍にいるんだからよ」
金色の瞳が俺に向けられる。
その瞳が「いいのかな?」って言ってる気がした。
仲間とかそういう人間関係の全てを否定してたが、悩んでてくれている。
それだけで、こうじわじわと感極まって抱き付いて「よしよし」していたら、ルフィに後ろで思いっきり怒鳴られた。
データが吹きとんていたので書き直し。少し尻切れトンボになったけど。