(1.5)ゾロ視点


一瞬だった。

小さな音がしたと思ったら、の身体が後ろに倒れていく。
まるでそこだけ時間がゆったりと流れているかのように、俺の…いや俺達の目には写っていた。
倒れていくの身体に浮かび上がる、赤い花は大輪になっていく。
それが撃たれたのだと気づくのに瞬き数回して、ようやく理解した。
どぅっ、と倒れるをかばう。
俺は刀に手をかけ、ルフィは拳を握り締めて。

、やだ、どうしよう…っ!」
「あまり動かすな! 止血ぐらいはできる!」
「こ、これ使ってくれ…っ」

の持っていた荷物の中身をあけてウソップが海軍の野郎に応急手当用の医療道具を手渡しているらしい。
ナミの声を聞きながら、俺達はそいつをにらみつけた。

「血が…っ止まらねぇ…っ」

ウソップの言葉に歯を食いしばる。
血の匂いが、鼻につく。
俺が…俺達が一歩も動けなかった…っ!!

「な、起きろ、目、覚ませ! っ、目が覚めたら…」
「目が覚めたら、どうだというのだ」

ウソップの言葉を聞きつけて、そいつが口を開いた。
黒いマントに、黒の上下。
どこぞの制服なのかもしれないが、どこの組織のものかはわからない。
そして平べったい帽子をかぶったそいつの顔は傷だらけで、凄みを持っている。

こいつ、強い。

「てめぇ…っ」

ルフィの声が響く。

俺の仲間になにしてくれてんだ…っ!!
「…悪魔を捕まえるには、殺す一歩手前にしなくてはならない」

そいつが近づく。
クロコダイルがにやつきながら俺達のやり取りを見ている。

「その悪魔は強いと感じた。だから支配下に置こうと思っただけだ。『仲魔』として」
「ふざけんな! このっ!!」

ルフィの拳を簡単に受け止めると、そいつは払いのける。

「人間には興味はない。サー・クロコダイルは別のようだがな」
「そのとおりだ。…本当にその子供がお前が言っていた『悪魔』なのか? ライドウ」
「それでなければ殺しかけたりはせぬ。我が手にかけるのは、総じて悪魔のみ」
「悪魔の実の能力者ではなくてか…」
「ならば今頃おぬしの首が飛んでいる」
「言うじゃねぇか…、ライドウ…っ」

くっくっく、とクロコダイルは喉を鳴らして笑う。
ライドウ、それがこいつの名前か…っ!

「…おい、目が覚めたらどうだというのだ」

目がウソップに行く。
ウソップは震えながら、それでも怒鳴った。

「お前に教えることなんか、何一つ、ねぇ!!!」
「…それは『悪魔』だ…。たかが加重弾一発でこう沈むはずはないほどの大悪魔の気配を感じる。…我の『仲魔』もそう訴えている」

小さな管のようなそれらを見せながら、ライドウは俺達の向こうで、海軍野郎に止血されているを見下ろしているのが判る。
そう、こいつは、を、見下している。
血が一気に沸騰しかける。
ダメダ、こういうときこそ冷静になれ。
自分に言い聞かせながら俺の手はゆっくりと刀を抜きかける。

「…人間の子供の姿は擬態だぞ、それの」
「それとか言ってんじゃねぇ…っ! は俺の仲間だ!!」
「…デビルサマナーでもない人間が、悪魔を支配下に置くことなど不可能。…さぁ、そこをどけ。我はまだその悪魔に用がある」

断る。

俺達はそこを一歩も引かなかった。

「…どうあがいても無理か。魅了でもされたか? 麦わらの一味」

そいつが腰の拳銃に手を伸ばそうとした、そのときだ。

「おい、ライドウ。出すぎたまねをしてんじゃねぇ。こいつらには用があるんだ。主賓が到着するまで、な」

クロコダイルの言葉に、ライドウはあっさりと銃から手を放した。

「…我に命令か?」
「必要とあればな」

ライドウは肩をすくめた。

「…ここで貴様とやりあう気はない。仕方あるまい」

クロコダイルの言葉に従うように、ライドウは俺達を一瞥する。

「あの程度で死ぬようならば、それまでのこと」
「死なせないわよ!! 絶対に…っ!!」

ナミの言葉に、くっ、とライドウが笑った。

「楽しみにしていよう」

がしゃん、とルフィが海楼石の格子を殴りつける。

「てめぇ、待て!!」

ライドウは鼻で笑う。
俺達を、そして目が覚めないを。
そうして背を向け、そしてゆっくりとした足取りで外に出て行ってしまった。
ルフィとウソップの怒号をものともせずに。

「待ちやがれ!! ぶん殴ってやる!!」
「ルフィ!! それよりも…っ」
「…

俺の呟きに海軍野郎がの治療をこなしながら口を開く。

「弾は貫通してるみてぇだからな、本当に応急手当だけだぞ」

見れば縫合しはじめていた。
麻酔なしのそれにもは起きやしない。

くそっ。

「…どのみち、死ぬとなっても全員一緒がいいだろう。なぁ? 麦わら」
は死なせねぇ!」

クロコダイルの乾いた笑いが、よく響いた。


の意識さえ戻れば、ペルソナで回復できるだろうに縫合が終わって包帯を巻き終えてもは目を覚まさない。
いや、それどころか、あいつの存在…あの気配…。
まるで気がつかなかった。
くそ、修行が足りねぇ…っ。
だから…が…。

「…あの野郎、ぶっ飛ばす…っ!」
「そりゃ俺の台詞、いや…」

違うな。

ルフィの呟きに俺は反射的にそう思った。
それは俺達の台詞じゃねぇ。
確かに憤りは感じるが。

「絶対に、の台詞だ」
「…あぁ、そっか。一番あいつぶん殴りてぇのは、きっとだもんな」

クロコダイルをぶっ飛ばしたいビビのように。
己を傷つけた奴をどうこうする権利は、にある。
俺がルフィに言うと、の血で汚れた海軍野郎…あぁ確かスモーカー、だっけか? そいつがじろり、と俺らを見つめた。

「ルフィ、なんとか血は止まったわ」
「そっか…よかったなぁ、
「でも流しすぎだ。そいつが縫合してくれたけど念のためにチョッパーに見せたほうがいい」(ウソップ)
「おい」

なんだよ。
俺達の目がスモーカーに向く。

「どういうことか、最初っから教えてもらおうか。…このガキのことは、ほんのさわりしかしらねぇ。孤児院のガキどもは、こいつのことを…「ニーネは神様」だとか抜かしていたが…」

悪魔ってーのはどういうことだ?
スモーカーの言葉を聴きながら、俺はクロコダイルに視線を向ける。
七部海の一角は、にやつきながら俺達をまだ見ている。

「悪魔とかそんなの関係ねぇよ。…そうだ、ナミ、肉ないか?」
「はぁ?」
、肉食えば治るだろ?」
「「そりゃおめぇだけだ!! それに起きなきゃ食えない!!」」

俺とウソップの言葉にスモーカーは葉巻の煙を吐き出した。




それはビビがつれてこられる、数分前のこと。




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