秘密の夜会話〜蘭視点



その夜は満月だった。
あたしと園子、そして和葉ちゃんは夜の見張り番にたつ くんを甲板でとめている少年探偵団の皆を休ませるために外に出る。
海の匂いに混じって、みかんの木の香りがする不思議な海賊船はまっすぐに航路をつきすすんでる。

「はいはい、お子様たち。いい加減しないと が見張り台にいけないでしょ」
「「「は〜い」」」

くんはどうやら探偵団の皆に手渡されたシャープペンとメモ帳で書いて話をしていたらしい。
本当、こっちの公用語が日本語でよかったわ。

「何、話してたん」

くんは和葉ちゃんにそう聞かれて、小首をかしげた。

「俺達の世界のこととか、だよな〜。

元太くんの言葉に くんは頷いてくれる。

「学校のこととか、家のこととか」
「事件のこととかもお話したよ」

光彦くんと歩美ちゃんがそう教えてくれる。
ここにコナンくんと哀ちゃんがいないのは、コナンくんはルフィと一緒にお風呂に。哀ちゃんはウソップ工場にてウソップさんと博士と三人でなにやら会議中だから。
哀ちゃんを見てチョッパーくんが怯えていたのはどうしてかはしらないけれど。

「お風呂の順番が来るかもしれへんから、はよ中に入り」

和葉ちゃんの言葉に「は〜い」と返事を返して くんに「おやすみなさい」と言うと探偵団の皆が船室に入っていく。
くんは手を振ってそれに返すと毛布を抱えた。

「上まで行くの、一緒に行ってもいいかしら」
「あ、あたしも行きたい」

あたしと園子がそう言うと くんはその金色の瞳をあたし達に向けて、こくりと頷いた。
見張り台までの高さは結構あるけれど、あたしたちは上まで上りつく。

「三人だとちょっと手狭ね」
「それでもいい眺め…」

あたしと園子の言葉を聞きながら、 くんは備え付けられていた望遠鏡を首にかけて、毛布をかぶる。

「あ、そうだ。 。あたしあんたに聞きたかったのよね」

園子が振り返る。

「?」
「あんた、今の姿は封印したもんなんでしょ? 本当の姿ってーのはどんなのよ? やっぱあんたのペルソナみたいなもんなの?」

ペルソナ。
アラバスタの死闘であたし達はただ見てるだけだけど、 くんの戦いも見た。
…悪魔の名前と異形を持つその存在を呼び出せる くん。
それはペルソナという、もう一人の くんの姿なのだとナミさんに教えてもらった。

悪魔。

人間の姿をとっているけれど、人とは違う種類だという くんはしばらく考えて、どういおうか悩んでいるみたいだ。
…無表情の くんの言いたいことをはっきりと目を見ただけで理解できるのはルフィとゾロさんしかいない。
あとの皆は「だいたい」理解でき始めたるけれど…正直あたしたちには判らない。
小首をかしげている くんに、園子はぽふ、と頭に手をやった。

「人の姿とかしてんの?」

こくり、と頷いた。

「あんたってどっちなのかしらねぇ、美少年なのかしら? 女の子かしら?」
「どっちでも くんは くんよ。ね〜? くん」

あたしの言葉に、こくり、と彼(彼女?)はまた頷いて、じっとあたしたちの顔を見つめる。

「…あんたの本性、見たいか? ってか?」

園子が笑う。

「本性って、園子。そういう言い方じゃなくて…」
「んじゃ、変身前?」

にっと笑って園子が言うと、 くんはすっぽりと毛布をかぶった。

「ほら、 くん。拗ねちゃったじゃない」
「え、うそ。ごめんごめん」

そのときだ。
ほんのり くんの身体が毛布の下で光ったのをあたし達は感じた。

すねてるわけじゃないよ。

子供の声。
あたしと園子は顔を見合わせて、それから くんを見つめた。
一度だけ聞いたことのあるそれとあわせる。

、くん?」

なぁに?

子供の声は優しくて、風に流されて消えていく。

「しゃべっても平気なの?!」

園子が興奮してそう言うと、 くんは毛布の中で小首をかしげた。

少しだけ、封印を緩めたんだ。

「ど、どうして? あたし達が姿を見たいって言ったから…?」

ナミさんたちには見せたことは、けっしてない。
見たことないって言ってたもの。
船長はわからないけれど。

うん。


子供の声がそう言って、こくりと頷く。

「で、でも…皆に見せたことないんでしょう?」
「あたし達に見せちゃっていいの?」



お礼。



「なんの?」

あたしがそう聞くと、 くんはしばらく考えてからこう言った。

わらびもち。
あれ、『懐かしい』って気がした。



それからしばらくすると、毛布の中で くんは服を脱いでるようで、そしてそれと同時に身体が大きくなっているようにも思えた。

「え、ちょっちょっと…ば、爆発とかしない…?」

園子のその言葉に くんが応えた。

爆発はしない。




毛布はずされて、顔や肌が夜の空に浮いた。
すらりとした身体に、女性らしい肉付。
髪は短いままに金色の瞳はそのまま。
顔や身体には刺青があって、それは満月の光と同じ色で光っていた。



初めまして、でいいよね。



その声も、その姿も。

「綺麗…」

思わず呟いたあたしの言葉に、 くん…いいえ、 ちゃんの目が丸くなった。
封印されてたいつもよりも表情が少しだけ、あるんだ。



こういうときは「ありがとう」?



そうして淡く、消えそうなくらいに淡く微笑まれて。
あたしと園子はそれが嬉しいやらどきどきするやらで押し黙った。
それからしばらくはあたしと園子と ちゃんは、その場で少し話をした。
その内容は、 ちゃんの心の状態を知る上で有意義だったとは思う。



次の日の朝。

園子が口を滑らしてルフィに ちゃんの本当の姿に関して話してしまい、彼がものすごい勢いで緘口令をあたしたちに強いたのはまた別の話。





その後の海賊王と悪魔っ子〜コナン視点



それは園子の一言から始まった。

「それにしてもきれいだったわ…。あんたは見たことあるっていってたっけ?」
「ん? 何をだ?」
の本当の姿」

「………!!!」

そのときのルフィの顔と言ったらすごかった。
その場にいたのは俺と蘭と園子とサンジ。

「ちょっ、ちょっと待った園子ちゃん。その口調からして見たことあるって感じなんですけど」(サンジ)
「え、あ…その…」
「見たのか!!?」(ルフィ)

びくぅっ! と園子が震える。

「おい、ルフィ。レディが怖がるだろうが!」
「見たのか?!」
「う、うん」
「お礼で、見せてくれたのよ」(蘭)
「お礼?」

俺が聞くと蘭が教えてくれた。
わらびもちのあの味を『懐かしい』と感じたし、満月っていう条件もそろっているからと封印を緩めて一時的にもとの姿になったということだ。

「ねぇね蘭姉ちゃん。 くん、どんな姿だった?」
「蘭ちゃん、 ちゃん、どんな姿だった?」

俺とサンジの言葉が重なって、蘭や園子が何か言おうとしたその瞬間だった。

言うな…!!

ルフィがそう言うと俺達を睨んでいた。
いつものあの陽気な声じゃなくて、低くて感情を抑えた声。

「ルフィ?」
「おい、ルフィ?」

「…蘭、園子。絶対言うな」

それはまさしく『船長命令』だった。

の姿、絶対言うな」
「「は、はい」」

こくこくと頷く蘭たちを一にらみして、それからサンジと俺を見る。

「聞くな」
「……へいへい、了解したよ。船長」
「うん」

俺達の答えに満足したのか、麦藁帽子をかぶりなおしてルフィは部屋を出るなり怒鳴る。

はどこだ〜〜〜〜!!」
「ちょっ、ちょっとまってルフィ」

まだルフィの気迫に飲まれた蘭たちを置いて、俺はルフィを追いかける。

「蘭ちゃん、園子ちゃん。 ちゃんが懐かしいって感じたあのお菓子、他のバージョンもあったら教えてくれる?」

サンジがそういってにっと笑う。

「食事の礼に封印を解いて、俺にも見せてくれるかも知れねぇだろう?」

そんなことを言い合ってるなんて俺は知らなかった。



ただ、俺はルフィの後ろを歩いて がいる場所をようやく見つけた。
みかんの木。
触るとナミに罰金を支払わなくちゃいけないその場所の近くに腰をかけて、まだ毛布をかぶっていた。

「お前、勝手に封印といただろ」
「…」

は目を瞑っているようだった。

「寝てるんじゃないの?」

俺の言葉もなしに、ルフィはみかんの木のふもとで寝てるナナシを見下ろす。

「なーんで園子たちに見せた」

うっすらと金色の瞳が開いた。
僕を見て、ルフィを見て、そしてまた閉じる。

「寝るな。聞け、人の話を」

ルフィの手が伸びて、そしてナナシの前で止まる。

「懐かしいってなんだ? 封印といてやるほど、お前嬉しかったのか」

どすん、とルフィが座る。

「封印といたらしんどいんだろうが」
「え。そうなの?」
「あぁ、ドラムで解いたときはすげぇ熱が出たんだ」

ルフィの声は低いまま。

「何、怒ってるの? ルフィ」
「…別に俺は怒っちゃいない」

俺はルフィの背中を見つめる。

「熱出してもいいって思ったのか?」
「…」
「…お前、俺達よりも蘭たちが好きなのか?」
「…」
「だめだぞ、そんなの。いや俺もあいつら好きだけど」
「…」

…あぁ、判った。
ルフィのその言葉で理解して、俺は肩の力をぬいた。
なんのことはない。

「おい、聞いてるのか?…って眠いのか? 寝るな」

ルフィはやきもちやいただけなんだ。
が自分以外に本当の姿を見せたことがなかったのに、蘭たちに自主的にその姿を見せたのが気に入らなかったんだ。

「ルフィ、昨日の夜ずーっと は寝てないんでしょう? 寝さしてあげたほうがいいんじゃないの?」
「…けどよ、コナン」
、船長さんがだっこして寝てくれるって。毛布よりもきっとあったかいよ」

何言ってんだ? というように の目が開き、そしてルフィの口元が笑みを作り出す。
あぁ、笑いをどうにか抑えようとしてるのが丸わかりだ。

「しょうがねぇな。よし、寝てもいいぞ。抱っこしてやる」

ひょいっと を抱き上げて膝の上にのせて、一緒に毛布に包まると、もうルフィは笑顔だった。

「しっしっし…」

「…」

は瞼を開けて僕を見ると、あきらめたかのようにまたそれを閉じる。

「あ、でもなんで解いたのかは後でちゃーんと聞くからよ」
「ご飯、どうしようか」
「俺と の分、こっち持ってきてくれ。ここで食う」
「は〜い」

俺はそう返事をしてキッチンに足を戻す。

「♪ね〜んねん、ころりーよ…って歌いらねぇか? しっしっし」

そんな海賊王の声を聞きながら。



にしても、ルフィって結構やきもち焼きなんだな。







「お前、自分のことを棚にあげなや」

元の世界に戻ってから、俺は服部にそう言われた。

え? そ、そうか?

っていうか、それ言ったらお前もだろ!!



 

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