はりつけにされたのはサンジだけじゃなかった。
みんなぼろぼろの姿で、ウソップ、そしてゾロまでいて。
僕の身体の中でマガタマたちがずくんずくんと鼓動をあげているのを感じながら麦わら帽子を触る。

人間の子供のこの姿と体力と能力でできることは限られてる。/出来るだろう?
今はおとなしくルフィがこの場所に来るまで待っていればいい。/本当に?
ナミさんもいるし、なによりルフィのこの帽子を汚すわけにはいかないじゃないか。/女も宝物も全てを守りきる力はあるとわかっているはずだ。
仲間を傷つけられても平気なのか?/仲間、じゃ、ない。仲間じゃない。仲間じゃない。仲間じゃない。

どくん、どくんと鼓動が煩くて、マガタマたちが声高に語りかけてくる。

封印を解いてしまえばこの場に居る人間たちに悪影響を及ぼすかもしれない。/かもしれないという過程だけで見殺しにするか。

25個のマガタマたちが、体の中をうねっているのが判る。
僕の感情を高ぶらせている。
戦え、闘え。思う存分にその力を行使しろ。封印を解く方法はちゃんと知っているはずだ。

?」

ナミさんになんでもないと、首を横に振る。
封印のとき方は、知っている。
マガタマたちの名を呼ぶこと。
心の中で、ひとつに声をかければ、力のある『声』が戻る。
けれどそれをやってしまえば、僕は…。
やってしまえ、人でないことを証明して彼らから離れるように仕向けろ。そのつもりだったんだろう。
ペルソナなんかよりもこちらのほうがきっといい方法に決まっている。


煩い。黙れ。

「よぉし、アトラクションとしてこのキング砲のためし撃ちだ!」

ベアキングがかけられていた布を取り去ると、でかい大砲がその姿を現した。

「標的はあの三人だ!!」

ベアキングの言葉にナミさんがハイキックを決めた。

「自分が、何を言っているのか判っているのか?」

ナミさん!
僕の反応よりも早くナミさんが吹き飛ばされる。
三人の足元に飛ばされ、僕もそこに突き飛ばされようとしたそのときに。
にやにや笑いながらベアキングがキング砲の標準を三人にセットしようとしようとしたそのとき、ボロードが三人をかばうかのようにせりあがってきた。
腹に巻いているのはここで盗んできたというダイナマイト。
…ってこんなところで爆発なんてされたらナミさんたちにも被害が…っ!
ベアキングが「ここでそんなもん使えるわけねぇだろ! 見てみろよ、この島の螺子をぶっ壊すつもりか? あぁ?」とか言い出す。

島の螺子。

島が崩壊かなにかするから、島の住人は抵抗できなかったのか。
ためらったその瞬間、ベアキングの一撃がボロードを鉄の壁にぶち当てる。
あの巨体であんなにすばやいのか。

「小僧! お前もこっちに」

変なガスを飛ばすそのひげのおっさんを、力の限り蹴飛ばした。
その間に何度も何度も鉄の壁にたたきつけられるボロード。
「ボロード!」と向こう側から、ウソップの声も聞こえる。

見捨てるのか、人間を。お前が。

僕は次の瞬間心の中で、名前を呼んだ。


マロガレ


一番最初に埋め込まれていた、きっかけのマガタマ。

ズクンっ!!

力がみなぎる、うっすらと燐光が自分を包む。
準備は万端。

これからマガタマたちの名を声に出せばそれでいい。
ボロードを助けるために、あの変な剣士に立ち向かいにきたアキースをかばう。

!」

一緒にアキースと突き飛ばされるが、かろうじて、麦わら帽子をかばいながら立ち上がる。
後は、声を出して24個のマガタマの…と、思った時だった。


城が揺れる。

轟音とともに、彼が下から床を破壊して、押し上げて、ようやくたどり着いたのだ。

「へぁ…はぁ……っやっとついた」

ルフィ…!

「貴様が麦わらのルフィか…!」

「お、! 皆は? どこいった? …っておぉぉおお、面白いもん発見」

へ。

気がつけばダイナマイトに火をつけていた。

「ん? どした」

僕は素直に口に出していた。

捨てろ

「よし、捨てりゃいいのか?」

そしてお約束的にナミさんたちがいる方向で、積み重ねてあるダイナマイトの上に投げるルフィ…!(泣)

「「うわ〜〜〜〜!!!!」」

轟音とともに壊れる鉄の壁、黒い煙。

「なぁ、それより俺の、ほかの仲間どこだ?」

「「今、お前が吹き飛ばしただろ!?」」

「…って、。今お前声出してなかったか?!」

「「遅ぇよ!!!!」」

まったくだ。
だけど。

「ルフィ、てめぇむちゃくちゃしやがって!」(ウソップ)
「まぁいい。おかげで脱出できた」(サンジ)
「あぁ、そうだな」(ゾロ)
「なんだ、無事かよ」(ルフィ)
「残念がるな〜〜〜〜」(ウソップ)

それからは、麦わら海賊団の反撃が始まった。




よかった。 僕の封印はこのままだ。
僕は内心胸をなでおろして、そこで気がつく。




よかったじゃない、じゃないか。
悪魔の姿をここで見せるいい機会なんだ。
麦わら海賊団たちと、別れることができる絶好の、機会なんだ。




ウソップは船であのくさいガスを出す奴と、ゾロはあの変な剣士と、サンジはまるっこい奴と戦いだした。
そして僕とルフィはベアキングの前にいる。

「どいてろ、! ゴムゴムの〜〜っガトリング…っりゃりゃりゃりゃりゃあああっ…てあれ〜?」
「はっ、身体が鋼鉄になるカチカチの実の能力だ。てめぇみたいなぶよぶよのゴムじゃ勝てるわけがねぇ」
「なるほど。そりゃぁ無理だ」
「「納得すんな〜!!」(ボロード&アキース)
「ふん! もう負けを認めたか」
「いや、ぜんぜん」
「ん?」
「だって俺、まけねぇもんよ!!」

今のうちに、もう一度だ!

マロガレ


もう一度、その名を呼ぶ。
燐光が僕を包む。

ワダツミ、アンク、イヨマンテ

呟くように唱えながら、力を解放しながら僕はベアキングに体当たりする。

「おぉっ!? なんだ。貴様!」
シラヌイ、ヒフミ…

燐光の一つ一つが僕の身体の中の力を呼び覚ます。

!」
カムド、ナルカミ…

淡々と名を告げると、そのたびに僕の力は元に戻ってく。
燐光は刺青になり、僕の身体を走り出した。
懐かしい、というか僕の今の本来の姿である、あの人修羅の刺青状態になっていく。
そのたびに僕はベアキングの拳を受け止める。
けれどいかんせん足技は足が届かない。
拳もまだ今の状態ではそんなに威力はない。

「ゴムゴムの、鞭〜〜ってあれ」
「ふん!!」

ルフィが飛ばされて、壁に激突した。
そのまま落ちたけど、なにか考え事してるみたいだ。
「いや〜しかし困ったなぁ」なんて聞こえる。
僕の呟き状態の声は聞こえていない。

あとちょっと、あとちょっとで完全に僕は本来の僕になる。

「くっこのちょこまかと…っ! ホットボーリングスペシャル!!」

そのときだった。
ボロードがキング砲の操縦席に座って動かし、圧倒的な力でルフィと僕を追い詰め始めたベアキングに向かってキング砲を撃ったがはずれて。

まずい、まずい、まずい。

第二射を撃とうとしたボロードに向かってベアキングが銃を向けた。

「……!」

足を踏ん張り、飛び出して回り込む。

「っ! !!!!

ダン! という音と同時に僕の身体は吹き飛んだ。麦藁帽子が、僕の頭からはずれる。

「かばったつもりか、それで。残念、二連式でな」

ダン!

次にボロードをかばったのは、アキースだった。
小さな身体が宙に飛んでいくのを、僕は封印を半ばといていた己の鋭敏な身体能力の全てでとらえていた。

「アキース!」

ボロードの声。

! 〜〜〜〜〜!!!!」

ナミさんの声。
僕は動けない。
なさけない。
まだマガタマの全ての名前を言っていないから、なんていいわけにしかならない。

「はっ」

鼻で笑いながらベアキングが僕の身体を蹴り飛ばし、僕の意識は急速に薄れていく。

、しっかりして」

ナミさんの声が遠く聞こえる。
マガタマたちが、落胆しているのがわかる。

…ルフィ、の、帽子…

「大丈夫、ここにちゃんとあるから…って貴方…声が…!」

瞼を閉じる。
もうすこしで封印を全部といてしまったのに。

「へ、わざわざてめえから弾に当たりやがった。そこまでして人のこと助けてぇかよ。あのがきも、そしてそこのガキも!」
…、目、開けて…」

ごめん、ナミさん。
僕、もう…。

「…見苦しいほど馬鹿で哀れなガキどもじゃねぇか!…ん?」
「お前。いま、なんて言った?」

ルフィ。

「馬鹿で哀れなガキどもと言ったんだよ!!」

「お前だけは、許さねぇ!!!!!」

ルフィの声は、よく響く。

耳にも。

そして心にも。




子供の体になっているから、封印をとくのにも時間がかかるし、体力もない。
強い衝撃で意識を失いやすい。
魔法も能力も使えない。
もう少し短くしてしまえよ。

マガタマたちが誘う。

そんなことしたら、封印の意味がなくなる。
自分の力を封じてるのは、ひとえに人間やほかの生き物たちを僕から守るため。




そのせいで、今日のようになっても?
今日の様になっても。




そのせいで、お前が死んでも?
死んでも。





そのせいであの海賊たちになにかあっても?
僕はその問いかけにも答えず、すとんと意識を闇に落として、身体の刺青も消してしまった。




2007.04月頃UP

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